指揮官が代わった今季もフランクフルトで確固たる地位をつかんだ長谷部 - © Dean Mouhtaropoulos/Bongarts/Getty Images
指揮官が代わった今季もフランクフルトで確固たる地位をつかんだ長谷部 - © Dean Mouhtaropoulos/Bongarts/Getty Images
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長谷部誠、再評価の理由

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開幕ベンチ外から不動のレギュラーへ。好調なアイントラハト・フランクフルトで存在感を際立たせる長谷部誠の現在地を探る。

「マコト・ハセベはチームを安定させる絶対的な存在だ」

アイントラハト・フランクフルトのアディ・ヒュッター監督はブンデスリーガ第11節のシャルケ戦に向けた会見の席で、チーム好調の理由として長谷部誠の存在を挙げた。今季序盤はベンチ外を強いられるなど厳しいシーズンになることが予想されたが、長谷部は新指揮官の下でも着実に信頼を積み上げ、今までどおりの絶対的な地位を築き上げた。

激闘のワールドカップを終え、長年けん引してきた日本代表を退いて臨んだ新シーズンのスタートは難しいものだった。リーグ開幕前こそ公式戦2試合にフル出場したが、チームはドイル・スーパーカップでバイエルン・ミュンヘンに0ー5で惨敗、昨季王者として臨んだドイツサッカー連盟カップ(DFB杯)でも4部のウルムに1ー2と不覚を取り、1回戦で姿を消した。

ヒュッター新監督を迎えた発展途上のチームと同じように、長谷部自身もまた新たな戦いに向けて心身ともに整っていなかった。「シーズンの最初は個人的にもあまりコンディションが良くなかったですし、W杯後に(試合への)情熱やエネルギーという部分で少し問題を抱えていたかなと思います」

指揮官はそんな長谷部をメンバーから外し、システムを3バックから4バックに変更してブンデスリーガに臨んだ。しかし開幕戦で勝利した後、チームは第2節、第3節で計5失点を喫して連敗。そんな中で長谷部もボランチでのボジション争いに苦戦した。「監督が好んで使う選手の中に、自分がなかなか入っていけていないというのは感じます。(監督が好むのは)とにかく走れて相手を潰せる選手。自分の強みはどちらかというと、もっとボールを触ってチームを落ち着かせるところだと思う」。結果的にブンデスリーガでは開幕から3試合も実戦から遠ざかった。

もっとも、そうした苦境の中で、ドイツで10年以上戦い続けてきた男に火がつかないわけがなかった。「一度外されたことで奮起した部分はあります。もちろん出られなかった時も(ポジションを)取り返す自信はありました」。闘志を再燃させた長谷部は、9月20日の欧州リーグ(EL)グループステージ第1節のマルセイユ戦で4試合ぶりに公式戦のピッチに立つと、フル出場で勝利に貢献。与えられたチャンスをしっかりとつかみ、以降も安定したパフォーマンスを見せ続けた。

長谷部の再起を待っていたかように、ヒュッター監督は模索していたシステムに最適解を見いだす。マルセイユ戦から中2日で行われたブンデスリーガ第4節のライプツィヒ戦では、リーグ戦で今季初めて長谷部を中央に置いた3バックを採用。チームは安定した守備を見せて連敗を止めた。続く第5節のボルシアMG戦では4バックに戻して長谷部をボランチに置いたが、チームは3失点を喫して敗戦。これが不安定な4バックを諦め、3バックへ原点回帰する決め手となった。

3ー5ー2の布陣で落ち着いた第6節のハノーファー戦以降、長谷部を中心とする守備陣は安定。それに乗せられるように攻撃陣も躍動するという好循環が生まれた。最近6試合は22得点・4失点と攻守がガッチリ噛み合い、戦績は5勝1分け無敗。順位も昨季王者バイエルンを抜いて4位に浮上した。長谷部が3バック中央で出場したリーグ戦7試合でチームは負け知らず(5勝2分け)。長谷部はチームに特大の安定感をもたらすことで自らの居場所を取り戻した。

今季は代表戦による長距離移動がなくなったことで、ELを戦う過密日程の中でもフル稼働でチームに貢献している。現在、公式戦12試合連続でフル出場中の長谷部に対し、今や指揮官も全幅の信頼を寄せている。「ハセベは守備で重要な役割を果たしている。彼はボールを持っていても、いなくても常にインテリジェントなプレーを見せている」

一度メンバーから外され、そこから這い上がるのは決して容易ではない。それを可能にしたのは、日本人選手のブンデスリーガ最多出場記録を更新し続けてきた実力と経験からなのだろう。「もしマルセイユ戦で出来が良くなかったら、もう使ってもらえなかったかもしれない。これまでのサッカー人生にもそういう場面はあったし、それをモノにするか、できないかは大きいと思います」

今季のフランクフルトの成績は、長谷部の調子と比例しているように見える。結局のところ、チームにとって長谷部の存在は不可欠で、それは今後もそう簡単に変わりそうにない。

文=湊 昂大