元々の控え目な性格のため、今季はボールを譲ってしまうことも。遠慮を捨ててどこまで殻を破れるかが課題だ
元々の控え目な性格のため、今季はボールを譲ってしまうことも。遠慮を捨ててどこまで殻を破れるかが課題だ

初の海外で奮闘

xwhatsappmailcopy-link

アーレン阿部拓馬の今季を振り返る(2)

語学以外の問題

2012/13シーズン、ドイツの1部・2部でプレーした日本人選手は計13人となった。何かと注目が集まりがちな1部の陰で活躍をみせるのが、今季から2部ボーフムでプレーするMF田坂祐介と、アーレンに後半戦から加入したMF阿部拓馬である。2人はともに大学卒業後にプロ入りし、Jリーグを経て念願だった海外挑戦に奮闘中。すでにチームを引っ張る立場となった田坂に対し、半年遅れでやってきた阿部はもう少し慣れが必要な段階にある。それでも2ゴール1アシストでシーズンを終え、存在感を十分にアピール。そんな阿部のドイツ初シーズンを振り返った。


阿部拓馬ギャラリーへ

阿部拓馬の今季を振り返る(1)へ



日本の選手が海外のリーグでプレーする際に障壁になるのは、語学やコミュニケーションの問題だけではない。ボーフムの田坂祐介も「慣れてくるまで半年くらいかかった」と話すサッカーそのものの違いをはじめ、日本より柔らかくやりづらいというピッチの芝、さらに日本では経験したことがない雪の中でのプレーなどにも慣れが必要だ。阿部はチーム加入直後「こんなんでやれんのかな」と驚いた。

「ブラウンシュバイクかなんか行ったときに、あの、ダイヤモンドダストっていうんでしたっけ? 雪が空中で凍っちゃうの。まあオレ試合出れなかったんすけど、なんか、すげえ貴重な体験だなと思いました。あんな中で日本で試合やることないな、と思って。きらきらしてる中で試合してました、みんなが。きれいでした(笑)」。

さらには阿部の場合、元来の控え目な性格のためか試合中にボールを譲ってしまうこともあるという。中学、高校、大学と常に注意され続けてきたことだ。

「なんか、昔からしちゃうんすよね。遠慮すんのはまあよくないことだけど。遠慮すんなって、どの年代でもどこ入っても言われてきました。なんか譲っちゃうんすよね、人に。人がやりたいって言ったことをどうぞってやっちゃう。確実に自分で行ったほうがいいってとこも(パスを)出しちゃったりしてたんで、今シーズン」。

自覚はしているが、性格的なものを直すのはなかなか難しい。5月12日の第33節ドレスデン戦では逆に、それを意識し直そうとしたのが裏目に出てしまった。3-0で勝利したこの試合、先発した阿部は計3本のシュートを放った。そのうち1本は相手DFの股を抜いてゴールを狙ったもの。しかし打った瞬間に、フリーの味方選手に気づいた。「もらう前に周りが見えなくなってたからだと思う。自分でやろうって思いすぎてもダメだし、周り見すぎてもダメ」と分析する。意識せずとも、試合中それが自然にできるようになるのが理想だという。

サッカーの違い


日本にいた頃にブンデスリーガの試合を観たことはなかったというが、テレビで観たドイツ代表のサッカーのイメージはしっかりと頭の中にあった。

「いろいろ観て、ドイツはこんな(体格を生かした)感じかなって想像してたんですけど、やった感じはその通りでしたね。だから、サッカーに対する戸惑いとかはそこまでは大きくなかったですね。まあ、慣れるのにはまだ時間かかってますけど」。パス一つにしてもパワーがあるため、J2よりもスピードが速い。それでもこちらの選手は慣れているので止めることができてしまう、そういった部分にスケールの大きさを感じるという。

阿部はドイツのサッカーを「シンプル」と表現する。パス回しなど、日本ではキレイに上手くつなごうとするのに対し、とにかくつながればいい、というのがドイツだ。上手くつながろうが人に当たってつながろうが、どちらも結果は同じ。100パーセント大切なのはその後、得点につながるかどうかだ。ゴールに向かうプレーがシンプルで、日本でこれまで経験したのとは違うサッカーに、楽しさも感じればもどかしさも感じている。

「つないで欲しい、パスが欲しい、というときに(味方がポーンと)蹴っちゃうっていう。こっち来て最初はすごく(もどかしさが)ありました」。

自分が慣れていかなければならない点と、チームメートの特徴をつかまなければならない部分、その両方が入り混じっているという意味で、阿部は適応していくためのポイントとしてスライディングとヘディングの2つを挙げる。

「こっちの人って、みんなスライディング上手いんですよ。日本は、得意か不得意かって感じなんすけど。だからもうちょっとスライディング上手くなれば、もうちょい順応できんのかなって。ボールの取り方とか、みんなうめえなって思って観てます。あと、ヘディングっすね」。

渡独から約5カ月。「慣れる」という段階において対応策のみえた今、あとは来季へ向けて実践を積み重ねていくだけだ。

新体制での挑戦


今季、初の2部という舞台で快進撃を果たしたクラブだが、頭を悩ませた問題は実はサッカー以外の部分にあった。ことし3月にメインスポンサーのImtech(イムテック)がスポンサー契約を解除したことから財政難に陥ったのだ。クラブはスポンサー探しと資金繰りに奔走し、サポーターに募金を呼びかけ、選手たちも自主的にカンパを行った。その甲斐もあり、無事来季も2部で戦えることが5月29日に発表された。

当然、財政に余裕はなく今夏の補強も最低限にとどまることになりそうだが、チームを2部昇格へ導いたハーゼンヒュットル監督は6月1日に辞任を表明し、後任は現時点で未定。監督が代わり新たに選手が加われば、阿部にとっても再び一からアピールしなくてはならない状況となるが、焦りはない。

「来季はことしよりも慣れてる状況でスタートできるんで、少なくとも。そういう面では、もう遠慮とかはしないでやっていきたいなと思いますけど。大学の3年、4年とか東京Vでの2年目とか3年目とかには、徐々に渡すとこと自分で行くとこと、後で見直してもそれで良かったかなっていう動きが多くなってくんで。そういうの・・・改善していきたいっていうか、いけるかなって思ってます」。

今季の9試合で2得点1アシストという成績は「評価に値しない。自分で仕事ができたと思うのは1回か2回」と、自己採点は厳しい。具体的な数字はいつも決めず、毎試合、出場すれば常にゴールを狙っている。プレーの内容が良くても結果が出なければ、自分に不満が残る。しかし内容を良くすることが結果につながると信じている。そのため、ゴールにつながるまでの過程を大事にし、さらにゴールにも絡めれば、と考えている。

日本的な控え目さはドイツでは必要ない。新監督のもとでまずは今夏の準備期間に遠慮を捨てしっかりアピールし、「毎試合スコアボードにいるような結果を残す」レギュラーを目指す。「殻を破る」がキーワードかもしれない。


Yukiko Sumi (鷲見由希子)