Summary

  • ハンブルク酒井高徳、独占インタビュー
  • キャプテン就任から1年、名門を率いる誇りと責任
  • 若手のアープ&伊藤がチームにもたらすものは?

酒井高徳がハンブルガーSVのキャプテンに就任し、1年が過ぎた。昨季、チームは最後の最後まで残留を争ったが、ウォルフスブルクとの最終節で競り勝ち、ブンデスリーガ創設以来、唯一降格したことのないクラブの伝統を守った。今季チームは連勝スタートを切るも、その後は8試合未勝利。11月に入ってからはホーム戦で2連勝を飾るなど状況は上向きになったが、現在も降格圏に沈んでいる。酒井に今季ここまでの戦いやキャプテンとしての思い、若手選手の台頭などについて聞いた。

ーー今季は開幕で連勝スタートを切りましたが、その後は8試合未勝利に陥りました。その原因は何でしょうか?

酒井 それを説明するのは難しいのですが、スタートが良かった分、その後の試合で少し気の緩みが出て、少しずつ下がって行ったのかなと思います。やっぱり、ブンデスリーガの一試合を戦い抜くには、常に100%ではないと試合に勝つことができないと僕たちは思い知りました。

ーーその後のシュトゥットガルト(第11節)、ホッフェンハイム(第13節)には 勝利しました。特に3ー1で勝利を収めたホッフェンハイム戦は今季最高の試合ではなかったでしょうか?

酒井 そうですね。(両試合とも)ホームでやっているのが一番大きいし、サポーターの皆さんの後押しもあって、力強いプレーができるのがアドバンテージになっていると思います。それ以外に何が良くなったかというと、チーム全体のコンパクトさだったり、アグレッシブさが増して、自分たちがやりたいことを同じ気持ちでやれている。チームが昨シーズンの良いプレーができていた時と同じ状態にまた戻ってこれたことが良くなったことの一番の要因だと思います。自分たちの形、例えばプレスを掛けるサッカーがコンセプトとしてチームにしっかり溶け込んでいるのが大きいかなと思います。

© gettyimages / Martin Rose

ーーハンブルクはバイエルン・ミュンヘンやホッフェンハイムなど上位チームとは良い戦いをしますが、直接順位を争うチームとは難しい戦いになってしまうのはなぜでしょうか?

酒井 強い相手とは守備から入ったり、ボールを取りに行く、自分たちは気持ちの面で負けないところを全面に出しやすい。ところが、自分たちと同じくらいの下位チームとの対戦では、どうしても自分たちのリズムをつくりたい、主導権を握りたいというところで、それぞれの試合で戦術の違いが出てしまうのかなと。(戦術が)明確な試合と、より明確ではない試合の違いかなと思います。

ーー離脱中のニコライ・ミュラーが復帰すれば、チーム全体が良い方向に向くのでは?

酒井 ニコが戻ってきたら非常に力強いと思うし、彼がもたらしてくれる得点力は僕たちにとって非常に重要になるし、皆が彼の復帰を待ち望んでいます。ただ、確かに一人の選手で変わってしまうこともありますが、今はそれ以外の選手たちでしっかり、自信と責任を持ってやれていて、それがうまくいっています 。けがをしている選手が戻ってきてくれた時には、ホームではもっともっと良い試合をしたいと思うし、より多くの勝利を重ねたい。今、アウェーを苦手としているので、ニコや他の負傷者が帰ってきたら、そこでもっと安定感のある試合ができたらなと思います。そしたら、もう少し上の順位にいける可能性が上がるのかなと 。

アープ&伊藤は「僕たちを活気づけてくれる」

ーーヤンフィーテ・アープ(17)と伊藤達哉(20)という若い戦力が加わり、前線に新しい風を吹き込んでいます。

酒井 そうですね。若い空気というのはチームに勢いをもたらしてくれるし、それは若い空気だけでなく、そのクオリティーを(両)選手がしっかり見せてくれていることが、僕たちを活気づけてくれると思います。彼ら2人が自信を持って試合に入ってやってくれるおかげで、チームとしても非常に良い結果で、チーム内の競争も上がって相乗効果になると思います。まだまだ若い部分もありますけど、昨シーズンに僕たちが残留を果たした時と同じように、皆が必要とされています。彼ら2人の活躍と自信もチームに大きなものをもたらすと思います。

ーー伊藤選手の成長についてはいかがでしょうか?

酒井 彼本人のモチベーションは高いですし、ポテンシャルも非常に高いです。彼の1対1の部分はチームの強みとなっていると思います。もちろん、まだまだ学ばなければいけないことはあります。こういった若い選手が出ると、どうしてもメディアが持ち上げてしまうところがありますが、ゆっくりと対応していきたいですね。彼がピッチ内外でリラックスしてプレーできることを僕が手助けしてあげることが一番だと思うし、そこから彼の得点や結果に絡むプレーを期待したいです。

今季途中からトップチームに昇格した伊藤を酒井は弟のように可愛がり、時にアドバイスを与えている © imago / Claus Bergmann

ーー酒井選手は両サイドバックや最近ではボランチでもプレーしていますが、ご自身の一番好きなポジションは?

酒井 一番は長くやってきたサイドバックですが、チームに必要とされるところがどこなのかと考えているし、ポジションに関係なく、自分の持っている全てを出してチームに貢献したいです。だからこのチームに関しては、特にここでプレーしたいというのはなく、どちらかというと自分が出場して、「チームを勝たせたい」「チームを少しでも上の順位へ上げたい」という気持ちでやっています。

ーー開幕2試合は先発から外れました。

酒井 サッカーにはそういう時期があるというか、何もうまくいかない時期がある中で、僕が一番大事にしていることは、自分が試合に出られなくても、その時自分に必要なことが何なのかを考えながらプレーする。それを諦めずにずっと続けるということです。準備を毎日していなかったら、いざチャンスが来た時にそのチャンスをつかむことはできないと思っているし、それを常に頭に入れながら、今必要なこと、自分が何をもっとしなければならないかということと向き合ってきました。常にチャンスはあると思っていたし、自分が入った時にどれだけしっかりできるかを見せるために何が必要なのかを考えてやってきました。

ーー今季、ここまでの試合を振り返っていかがでしょうか?

酒井 最初の方は難しい時期があった中で、 また自分らしさを取り戻せて、まず自分がプレーしていることは良かったと思ってます。順位に関しては、なかなか下から抜け出せることはありませんでしたが、ここ最近はチームとして安定感が出てきたので、ここまで“悪くない”というのは少し違うかもしれませんが、自分たちらしさを取り戻せてきているので、ここからの巻き返しが大事かなと思いますね。

「日本人の誇りとHSVの誇り」

ーーザンクト・パウリの宮市亮選手を取材した際に、「酒井選手はハンブルクで一番のキャプテンだ」と言っていました。ハンブルクではこれまでフェリックス・マガトら多くの名選手がキャプテンを務めてきました。ブンデスリーガで最も歴史のあるクラブの一つでキャプテンを任せられていることについてはどう思いますか?

酒井 自分ではそうは思わないです。素晴らしい選手たち、実績も名前もある選手たちがキャプテンをやってきています。僕はその歴史の一部に過ぎない選手かなと思っていますが、ただ責任感はすごく感じるし、「このチームを強くしたい」「勝たせたい」という気持ちを持って常にプレーしています。時計を見ても分かるように、あの時計は歴代のキャプテンたちが引き継いできた印でもあるので、自分が止めないようにという気持ちでやっています。もう一つは、キャプテンになった最初の日本人として、そこは日本人の誇りとHSVの誇りをどちらもしっかり持ちながらプレーしています。

北西側スタンドの一角に設置された時計はブンデスリーガ開幕節がキックオフされた1963年8月24日17時から時を刻んでいる(写真は今年10月21日のバイエルン戦で、54年58日1時間27分13秒) © gettyimages / Oliver Hardt

ーー酒井選手はプロ選手の鑑だと思います。ご自身はピッチ内外での自分をどう見ていますか?

酒井 ピッチ外ではそんなに喋るタイプではないです。ただ、大事なところでは人とコミュニケーションを取りたいし、ピッチの外でやっていることがピッチの中でも出ると思っているので、私生活でも常に人に見られていることを意識しながら生活しています。ピッチ内では自分に厳しい選手かなと思いますね。

ーー昨シーズンの北部ダービー(ブレーメン戦)で敗れた後、 また伊藤選手のことでメディアが間違った報道をした後、ご自身のインスタグラムで長文のドイツ語によって説明されました。母語ではない言語でコミュニケーションを取るのは苦労もあるかと思います。

酒井 そうですね。キャプテンをやっていてもそうですけど、だいぶ喋れるようになったので最近はほとんどないですけど、通じないことだったり、伝わらないこともあります。書くとなるとどうしても誤字脱字が出てきてしまいますが、こっちに来て感じたのは、こうやってキャプテンに指名された要因の一つかなと思うところでもあるのですが、恥ずかしからずに「君たちとコミュニケーションを取りたいんだ」という気持ちを出すことで、こっちの人たちに受け入れてもらいやすいかなと。ドイツで応援してくれているファンもいるし、そういう人たちに向けてドイツ語を話すことは非常に大事なことだと思うし、日本人だから日本人だけに(発信する)っていうのは違うと思うし。各国に応援してくれている人たちがいるので、 ドイツ語で書くというのは僕にとって大事なことなのかなと思います。

© DFL DEUTSCHE FUSSBALL LIGA

ーーオフの日はどのように過ごしていますか?

酒井 買い物ですね。服がすごく好きで、ファッションやおしゃれなものにすごく惹かれるタイプなので、買い物に行くことが多いです。

ーー アルビレックス新潟でプレーしていましたが、Jリーグとブンデスリーガの違いは?

酒井 まず歴史が大きく違うなって思います。Jリーグの歴史はまだ浅いですし、ブンデスリーガの歴史はすごく長い。ただその中でも日本人はテクニックもあって俊敏性のある選手が多いですよね。比較して一番違うのはスピード感かなと思います。ブンデスリーガの方が試合展開もすごく速いし、攻守の切り替えだったり、プレーの判断スピードも非常に速いし、全体的なスピードが日本とは違うかなと思います。

W杯でバイエルンのスター選手と対戦「危ない選手は他にもいる」

ーーブンデスリーガのレベルは?

酒井 5大リーグ(の一つ)と言われているくらいですし、最近ではヨーロッパ(欧州カップ戦)で勝ってはいませんが、2番、3番目には入ってくるリーグだと思います。

ーー 今シーズン残りのリーグ戦に向けた抱負をお願いします。

酒井 ホームでは絶対に勝ちたいと思っているし、サポーターの皆さんと勝利を味わいたいです。どんな相手が来ても関係なく、自分たちのサッカーをホームで貫きたい。また勝ち点をできるだけ多く重ねたいと思います。後半戦に関しては、昨シーズンは前半戦の結果が良くない中で後半戦では巻き返したので、ブンデスリーガは分からない部分も多いですし、後半戦は自分たちが上にいくチャンスがまだまだあると思います。チームスピリットで後半戦を戦い抜ければ、今いる順位には少なくともいないと思います。

ーー来年のFIFAワールドカップのグループが決定しました。日本はポーランドとコロンビア、セネガルのグループに入りましたが、バイエルンのロベルト・レバンドフスキ(ポーランド代表)やハメス・ロドリゲス(コロンビア代表)と事前にマッチアップできるのは酒井選手にとってアドバンテージになりますか?

酒井 世界のトップの選手が全てのチームにそろっていると思います。もちろん注目されている選手はいますが、サッカーは11人でやるものなので、ハメス選手やレバンドフスキ選手よりももっと危ない選手は他にもいると思うので、名前が挙がっている選手だけに気を取られてしまったら 負けてしまう。率直な感想は、簡単なグループではないかなと。僕にとっては、両選手を知っているからといって、そんなにアドバンテージにはならないかなと思いますね。 

W杯で日本代表が対戦するポーランドのレバンドフスキ、コロンビアのハメス・ロドリゲスが所属するバイエルンとは来年3月上旬にマッチアップ予定 © gettyimages / Oliver Hardt

Interview by Ingo Rohrbach