Summary

  • ハンブルク伊藤、20歳のドリブラー
  • プレーでハンブルクファンを魅了
  • 今季20試合に出場、2アシスト

ブンデスリーガ2017/18シーズンの「ルーキー・アワード・オブ・ザ・イヤー」ハンブルガーSVの伊藤達哉(20)がノミネートされた。同企画の動画では元ドイツ代表のローター・マテウス氏が「彼のプレーを見るのが大好きだ。ボールを持つと攻撃で必ず何かが起きる。1対1で勝負強く、素晴らしいFWだ」とコメントしているが、この言葉に異を唱えるハンブルクファンはいないだろう。

今季シーズン途中、U-21からトップチームに昇格した伊藤は第6節レーバークーゼン戦で途中出場からブンデスリーガデビューを飾ると、翌節にはブレーメンとの北部ダービーで先発に名を連ねた。スタジアムの誰もが驚く起用だったが、163cmの若者がドリブルでサイドを果敢に切り崩しにいくと、彼がボールを持つごとに歓声は大きくなっていた。足をつって53分までのプレーにとどまったが、伊藤がピッチを去る時、スタンディングオベーションが起こった。

© imago / Michael Schwarz

その後、伊藤はコンスタントに出場を重ねるも、なかなか白星を得ることのできないハンブルクは監督交代に踏み切った。すると、ベアント・ホラーバッハ監督の下、伊藤は出場機会を失ってしまう。しかし、同監督も結果を残せず2ヵ月弱で解任され、今季3人目の監督としてU-21時代に伊藤を指導したクリスティアン・ティッツ氏が就任した。

すでにクラブは降格危機に瀕していたが、同監督の下でチームは復調し、最後の最後まで粘りをみせる。先発に返り咲いた伊藤のパフォーマンスも向上。伊藤のドリブル突破を止めようとする相手DFのファウルでハンブルクはPKを獲得することもあれば、伊藤のクロスからゴールが生まれることもあった。

© gettyimages / Martin Rose/Bongarts

最終的にクラブは史上初の降格となったが、伊藤はそのプレーでハンブルクファンを魅了し、ファンの心をつかんだ。

これまで何度か「ファンの心をわしづかみ」という表現を用いたことがあるが、それは2010/11シーズンにドルトムントに加入した香川真司が、シャルケとのルールダービーで2得点を決めたことを表す“決まり文句”だった。ブンデスリーガ2部への降格が決定しても、年間チケット1万5000枚が売れているハンブルクで来季も活躍することができれば、伊藤はブンデスリーガのクラブで最も愛される日本人選手の一人になるかもしれない。

伊藤のツイッターには、下記のコメントが寄せられている。

  • 伊藤選手、ありがとう。今後も長くハンブルクに残ってほしい。君がいることで、サッカーがまた面白くなったよ
  • タツヤ、君のプレーにファンは魔法をかけられたよ。今後の道もこのように進めば、僕たちはもっと大きな喜びを一緒に分かち合えるだろう。君がこのチームの一員であることがうれしいよ。
  • 伊藤選手が10人いたら、残留できただろうな。
  • タツヤ、君のプレーを見ると、僕は鳥肌が立つんだ。君は素晴らしい選手だ。チームに長く残って、このまま活躍してほしい。

© imago / Kyodo News

また、ブンデスリーガ編集部のライターたちも伊藤を高く評価している。ドイツ時間早朝にFIFAワールドカップの日本代表の仮登録メンバーが発表された5月18日、私は編集部の席に着いてすぐにポーランド人の同僚にそのことを伝えた。すると、彼女は「知ってる。(ブンデスリーガ所属の)日本人選手はほとんど入ったみたいね。伊藤以外は」と言った。そこで、私たちの会話に耳を傾けていたドイツ人同僚2人が加わる。「どうして伊藤がメンバーに入ってないんだ?」「彼が残り10分で投入されたら、相手チームには脅威なのに」と。彼らは日本代表チームに対する知識はそれほどない。だからこそ、この言葉は伊藤に対する純粋な称賛だろう。

数日後、また他のドイツ人同僚に伊藤のW杯“最終メンバー”入りについて聞かれた。彼はU-21日本代表であり、A代表ではないことを伝えると、「残念」とションボリ。その同僚は根っからのブレーメンファンで、ハンブルクの降格を誰よりも喜んでいた一人なのだが......。

© gettyimages / Oliver Hardt

ブンデスリーガではこれまで30人の日本人選手がプレーしてきた。ここ数年は毎シーズン、8〜10人が所属しており、もちろん各クラブで評価されている。しかし、クラブのファンから愛され、他クラブのファンの間でも知られている、警戒されているという点では、ドイツでの香川の人気、知名度は桁違いだ。ポーランド人同僚の言葉を借りるならば、「ポーランドでは香川のことはみんな知っている。でも、他の日本人選手のことは誰も知らない」。

伊藤のハンブルクでの1年目は、ドルトムントで愛される香川のような存在になり得る期待や予感をさせてくれるものだった。来季はブンデスリーガ2部で研鑽を積み、ハンブルクファンをこれまで以上に沸かせなければならない。ブンデスリーガで唯一無二の在籍記録が途絶えた今、クラブは新たな誇りを探している。その一つに、伊藤はなり得るだろうか?