マインツのスポーツディレクターを務め、チェルシー(イングランド)からもオファーのあった武藤嘉紀の獲得に成功するなど数々の業績を残してきたクリスティアン・ハイデル氏は、今シーズンからシャルケの同ポストに就任した。ドイツでも歴史があり、ビッククラブの一つであるシャルケでもハイデル氏はすでにその手腕を発揮している。同氏が当サイトドイツ語版の独占インタビューに応じ、今夏の新加入選手の獲得までの秘話などを明かした。

中国の広州富力をサポート

——シャルケはブンデスリーガ・ワールドツアーで中国を訪れました。現地のシャルケに対する反応はいかがでしたか?

ハイデル このツアーはとても素晴らしい経験でした。中国はあらゆる観点からして、魅力的な国です。それぞれのバルコニーに洗濯物が干してあるあれほど多くの高層ビルを見たのは初めてでしたよ(笑) もっとも、一番驚いたのは広州で大勢の人たちがシャルケのユニホームを着てくれていたことです。それに、テストマッチの2試合とも熱狂的なファンがスタジアムを埋めつくしてくれました。

——シャルケとブンデスリーガにとって中国はどのような意味があるのでしょうか?

ハイデル シャルケのようなクラブはブンデスリーガとクラブ自体を中国で有名にし、中国の大きなマーケットに進出する義務があると思います。だからこそ、シャルケというブランドを現地で紹介できたことは非常に重要でした。私の印象では、それはかなりうまくいったと思います。湿度が高く、体感温度が44、45度のような気候の中でのツアーは簡単ではなかったかもしれません。それでも、全選手は完全にプロとして対応しました。各々がこれは準備のための合宿ではなく、異なる目的を果たすためのツアーであることを理解していました。

——シャルケは広州富力(中国スーパーリーグ)と提携を結びました。それについて、説明をお願いします。

ハイデル 私は提携という概念をそれほど大きくしたくはありません。しかし、会議が行われ、将来的にシャルケの育成部門が中国で支援するような交流をすることが取り決められました。中国はとても興味を持っていて、大きな計画があります。目標は再びW杯に出場するだけでなく、いつかW杯で優勝することです。私は14億人の中に、支援と育成すべきタレントがいることを確信しています。その点で我々は広州富力をサポートできます。

ナルドを移籍金ゼロで、エンボロはプライベートジェットで獲得

——ハイデル氏のシャルケでの最初の仕事は中国ツアーではありませんでした。その前に、ナルドブレール・エンボロを獲得しましたね。

ハイデル シャルケがこのような移籍を実現できることを示したかったのです。我々には計画とアイデアがあり、誰もができるわけではないかもしれないことを可能にできることを。シャルケはとても若いチームです。(ベテランの)ナルドが(移籍金なしで)獲得可能と知ったとき、彼がチームに良いものをもたらしてくれると確信しました。しかし、それと同時にこれは望まないテストでもあったのです。事前に移籍話を知られてしまったら、彼を獲得できないことは分かっていました。でも、この試験を見事に切り抜け、実際にサインを交わした後に移籍が公になりました。

——エンボロについてはいかがですか?

ハイデル 彼の獲得についてはいくつかの理由があります。一つはスポーツ的な理由。この若者が良いプレーをすることは、きょう分かったことではありません。ジョゼ・モウリーニョ監督が彼をマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に欲しがったのも十分な証拠があります。さらに、我々は彼が将来的にシャルケのアイコン、例えばベネディクト・ヘーベデスやレロイ・サネ、ラルフ・フェアマンのようになることを見込みました。そのような役割をエンボロはすでにバーゼル(スイス)で担っていたのです。バーゼルで売れたユニホームの80%は彼の名前入りのものでした、彼はとてもオープンな性格で、よく笑い、誰もが好きになってしまうタイプですよ。

——彼の獲得のために、ハイデル氏は欧州選手権のスイス代表の合宿地まで赴いたんですよね。シャルケのクレメンス・テンニース会長のプライベートジェットで・・・。

ハイデル クレメンス・テンニース会長は私がシャルケに着任した日に、必要な時にはプライベートジェットを出すと申し出てくれました。我々がこれ以上待つと、ライバルがエンボロ獲得に動く危険性が大きくなると感じ、デュッセルドルフからモンペリエへ飛ぶ以外に選択肢はないと・・・。それでテンニース会長の言葉をそのまま受け止め、例外的に彼の飛行機をお借りできないか尋ねました。彼は「モペットが来るから」と即答でした。彼はパイロットをモペット(ミニバイクの意)と呼んでいるんです。それで13時に離陸し、18時には帰って来ました。その数時間の間に、安全な(屋根と仕切りのある)場所で契約を結びました。もちろん、スイスサッカー連盟の合意の元です。

マインツで24年、そしてシャルケでの新たな挑戦

——ハイデル氏は24年間、マインツで働いていました。シャルケでの今後が楽しみな一方、悲しい気持ちはありましたか?

ハイデル どれほど悲しかったか、言葉では言い表せません。マインツが不満で去ったわけではありませんから。これは純粋に個人的な人生の選択でした。もう一度、違う場所で新しく始め、新たな人たちに出会い、新しいことを経験してみたかった。2年前であれば、「NO」と言っていたでしょう。それでも、自分がこの道に行きたい、この気持ちを大切にすべきことは常に明確でした。だからといって、マインツでの24年間を1日も忘れたくないという事実は変わりません。マインツというクラブから離れることは苦悩でしたが、それがうまくできたことを願ってます。

——シャルケでの最初の1週間はいかがでしたか?

ハイデル まず、シャルケは大きなエネルギーを発していることに気づきました。それに毎日、新しいこと、クラブがあらゆる点でトップレベルにオーガーナイズされていることを発見しました。営業部門に関しては「脱帽!」と言うしかありませんよ。その一方で、サッカー部門では少し驚きました。チームや監督の職場環境に関してです。それについてはちょっと今の時代に適していないように感じました。

——詳しく言うと?

ハイデル 練習場はトップレベルなのに、監督とチームの練習前後の職場環境は理想的ではありません。今日ではコーチングスタッフは監督とアシスタントコーチだけでなく、一つのトレーニングチームとして成り立っています。だから、一人一人が例えばインターネット接続のある作業デスクを与えられるべきです。実際、キッチン用テーブルの2倍くらいの大きさのデスクが一つあるだけで、皆の肩と肩がぶつかり合いながら座っていました。それに、選手の環境も理想的ではありませんでした。プロサッカー選手の仕事は1日90分のトレーニングと週末の試合だけではありません。定期的なケアや戦術的な相談、定期的な会議などがあります。それらの条件が整っていて初めて、プロとしてやっていけます。

——短期間でこれらを変えるのですか?

ハイデル 初日からこれらのテーマに取り掛かりました。シャルケの壁がこれほど早く崩壊したことはないと思いますが、実際は今、そうなっています。

——文字通り、崩壊ですね?

ハイデル しかも一つだけではありませんよ(笑) まず初めに、暫定的なトレーナー専用のオフィスを作りました。各トレーナーが自分のスペースを確保できるように。チームには話し合いをする部屋を新設しました。これで選手はバー用の椅子や冷蔵庫、レンジの横に座る必要はありません。まだ過渡期ですが、年末までには最適な状況にしたいと思います。

——このような構造の変化は、スポーツディレクターだけでなく、マークス・ワインツィアル新監督にとってもメリットですね。

ハイデル これで新たなスタートはずいぶん楽になったと思います。マークスと私は新しくやって来たので、何かを変えたいと言うのは簡単です。例えば、練習場にカメラを取り付けました。それは、トレーニング中、ファンにとって良いアトラクションとなりました。マインツでも2年前からそのようなカメラがあるんです。マルクスとは最初の話し合いから波長が合い、同じようなやり方で仕事がしたいと感じていました。今日のサッカーがもたらす全ての可能性を引き出す、綿密な仕事です。トレーニング分析や医学的な領域も含まれています。これら全てが相互に働き合い、もっと改善されないといけません。そうすれば、10〜20%のパフォーマンスが上がると思います。

——中期的な可能性はどう見ていますか?

ハイデル シャルケには約15万人の会員、それ以外にも数えきれないほどのサポーターがおり、常にチケットが完売するヨーロッパでも有数のスタジアムがあります。基本的には、サッカーで成功しなければいけません。バイエルン・ミュンヘンを超える可能性は、あまり考えられないことかもしれません。でも、シャルケはブンデスリーガのトップとやり合う力を常に持っています。現在ある力を結束し、街で人々が話している順位まで上げたいと思います。

——新シーズンはどうなるでしょうか?

ハイデル シャルケでは「残留したい」「一桁の順位になりたい」と言って、シーズンを始めることはできません。シャルケは常に欧州カップ戦、できれば欧州チャンピオンズリーグ(CL)に出場できる順位を求められていることは明らかです。それでも常に成長と継続性が課題になります。それについては、役員からファンまでがクラブが創設された日から理解していなければならないことです。シャルケはつまらくなってはいけません。シャルケは人々を熱狂させ、人々の心を動かさなければいけません。シーズン終了後、がっかりさせて「シャルケらしい」とまた言われたくありません。「シャルケらしい」という言葉は将来、違う意味にならなければいけないのです。

——そのために、現在はまだ欠けていることは?

ハイデル ここでは全員がボールを蹴ることができます。私が少し足りないと感じているのは、ディフェンスの基礎的な理解です。しっかりと守備をすれば、サッカーはもっと楽しくなるということを選手たちは学ばないといけない。ボールを失った際に守備がしっかりしていなければ、好ましい結果は得られません。昨シーズンのシャルケは50失点(正確には49)を喫しました。多過ぎます。バイエルンとお隣さん(ドルトムント)はもっとうまくやっている。ディフェンスの基礎的な理解は、マインツのようなクラブがブンデスリーガの6位なれる理由でもあります。マインツではディフェンスの基礎がしっかりしていて、ボールを失っても全選手が何をすればいいのか分かっています。これはオートメーションなので、監督のこれからの課題になるでしょう。

——「お隣さん」と表現されましたが、ドルトムントのユルゲン・クロップ元監督とは親密な関係にあり、ジクナル・イドゥナ・パークではいつも歓迎されていましたよね。でも、今はドルトムントのイメージは悪くなっていますか・・・?

ハイデル そうせざるを得ませんね(笑) 私があのダービーを真剣に受け止めないなどとは誰も思わないでしょう。私自身、かなりサッカーにクレイジーな人間であり、このダービーがどれほどシャルケにとって重要かということを感じています。ダービーでの勝利は個人的にも非常に感情的になるでしょう。反対に、ドルトムントの人たちは「やった!あのハイデルがやって来た。シャルケは最高になった!」とは言わないでしょう(笑) それでも憎悪とは関係ありません。私はそのような感情でドルトムントへ行くことはないと思います。