ドルトムントが本拠地でバイエルン・ミュンヘンを迎え撃つブンデスリーガ第25節「デア・クラシカー」はドイツ国内だけでなく、世界中から注目を集めている。そのドルトムントのハンスヨアヒム・バツケ社長が当サイトドイツ語版の独占インタビューに応じ、直前に迫った「デア・クラシカー」への心境や国際市場への進出、「黄色い壁」と呼ばれる本拠地ゴール裏のファンブロックなどについて語った。

——バツケ社長、3月5日(土)にドルトムントは本拠地ジグナル・イドゥナ・パークにバイエルンを迎えます。どのようなお気持ちですか?

バツケ氏 われわれはその前の2日(水)に、ダルムシュタットとの対戦を控えています。まずこの試合に集中しなければなりません。もちろん、バイエルンとの一戦が国内最大のイベントであることは言うまでもありません。そして、その一戦を楽しみにする気持ちがふつふつと湧いてくるのは当然ですよ。

——ドルトムントの社長として、これまでも幾度となくバイエルンとの対戦を経験されていますが、やはりこの一戦における緊張感は特別なものでしょうか?

バツケ氏 いいえ。おそらく私だけかもしれませんが、緊張感というのは例えばホッフェンハイムと対戦するときとバイエルンを相手にするときで変わりはありません。それでも、ドイツサッカー界にとってはドルトムント対バイエルンが最も重要な試合で、当日はジグナル・イドゥナ・パークが特別な雰囲気に包まれます。このような雰囲気は年に2回、バイエルン戦とシャルケ戦でのみ味わえるのです。

試合前の儀式

——キックオフの30分前は、通常どこにいらっしゃいますか?

バツケ氏 その時間帯は選手の控室でミヒャエル・ツォルク(スポーツディレクター)か監督と短い話し合いをしていますね。時にはスポンサー企業の方々へのごあいさつに伺う場合もあります。試合の始まる5、6分前には決まって、選手が入場するトンネルをくぐり、ピッチを横切って私の席があるバックスタンドへと向かいます。

——選手たちが入場し、ファンから大きな歓声が沸き起こるのは鳥肌の立つような瞬間でしょうか?

バツケ氏 試合前に芝を横切って席へ向かう前に少しの間、ベンチに腰掛けてその雰囲気を体いっぱいに吸い込みます。そのことが私に大きなエネルギーを与えてくれます。すでにスタジアムは8万1000人のファンで満員で、本当に素晴らしい眺めですよ。

——バイエルン戦の約4週間後にはシャルケとのルールダービーが行われます。この一戦は、シャルケとドルトムントにとってどのような意味を持つのですか?

バツケ氏 昔のような重要さは薄まりつつありますね。サッカー界は国際化し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)への注目度が群を抜いています。ドルトムント対バイエルンが国際レベルにあるのに対し、シャルケとの対戦はあくまで国内レベルの戦いです。もちろん、ファンにとってのルールダービーの重要さは薄れはしませんが、シーズン最大のイベントとは言えないかもしれません。

「立見席の文化はサッカー界にとって大切」

——ファンの話が出ました。クラブとファンの関係について、特に「黄色い壁」と呼ばれる南側スタンドの立ち見席についてお聞かせください。

バツケ氏 クラブのモットー「真実の愛(Echte Liebe)」は、クラブとファンの関係のためのキャッチフレーズです。この「真実の愛」として、例えば2万8000の立ち見席を提供し、常に黒と黄色のチームカラーで戦い、クラブの育成部門からプロチームまでがすべて同じ施設で練習に汗を流しています。私が11年前、社長に就任したばかりのときは300万人だったファンも、現在は1000万人を数えるようになりました。彼らがクラブとの深い絆を感じてくれていると確信しています。

——南側スタンドは立ち見席として欧州最大規模を誇ります。ご自身にとって「立ち見席の文化」はどのようなものですか?

バツケ氏 「立ち見席の文化」はサッカー界にとって非常に大切な意味を持っていると思います。サッカーは庶民の味方でなければならないというわれわれの意思表示は、例えばイギリスに向けられています。11から14ユーロの間、当日券なら17ユーロまでで立ち見席が提供されているのが理想ですね。しかし、欧州でいくつのクラブが立ち見席を用意しているでしょうか。そして、どこを探しても2万8000の立ち見席のあるクラブはドルトムント以外に見当たらないと思います。われわれは「立ち見席の文化」を通して、クラブの社会に対する立ち位置を示しています。もちろん、ドルトムントも収益は上げたい。それでもサッカーというものが、多くの人々が集う娯楽の場としての顔を失ってはいけないと考えているのです。

——数学者や心理学者に聞くべきかもしれませんが、その立ち見席がクラブの成功をどのくらいの割合で支えているのでしょうか?

バツケ氏 それについては、そう簡単に答えられませんね(笑) それでも立ち見席とクラブの成功が切っても切れない関係を持っていることは、議論の必要もないと思います。試合になれば、ひとつのパスミスに2万8000人のファンが同時につくため息に耐えなくてはなりません。ぞっとするような、大きなため息です。それでも第22節のホッフェンハイム戦のような試合(※)が、ファンブロックだけではなくスタジアム全体を熱狂の渦に巻き込み、その雰囲気の中で選手たちはさらに20cmは成長するのです。少なくともドルトムントの選手はね(笑)

(※)80分から3得点を挙げ、3-1で逆転勝利を収めた

——ドルトムントは国内最大のスタジアムを持ち、約13万3000人の会員数と現在のブンデスリーガでの順位も2位という位置にあります。この後もクラブとしての成長は続くのでしょうか?

バツケ氏 それについては国内と国外、両方向で考える必要があります。欧州内でのドルトムントはクラブの予算としては25番目ほどの位置にいるにも関わらず、10位以内の成績を収めています。国内では経済面でブンデスリーガ3位以下のクラブに差をつけていくことが目標です。バイエルンを経済的に追い越すことは到底できませんが、少なくともサッカーでは、われわれが良いシーズンを送ることでチャンスがあるのです。もちろん、バイエルンが悪いシーズンを過ごしてくれることも前提で、それはしばらくは起こり得ないかもしれませんね。でもそのときがやって来たら、われわれドルトムントの出番です。

——スタジアムの規模を大きくする計画はあるのでしょうか?

バツケ氏 そのような構想はありません。まず、現在のスタジアムは1974年に建てられたものが基礎となっていますので、増大となると予算がかかり過ぎてしまいます。そして、スタジアムをこれ以上大きくすることはあまり意味を成さないと考えています。9万、10万人収容のスタジアムを常に満員にするのは難しいでしょうからね。スタジアムがほぼ毎試合満員になるのはドルトムントの大きな強みで、この強みを失うわけにはいきません。

——ドイツ国内でのドルトムントの知名度は、これ以上ないところに到達していると思います。どれほどの伸びしろが残されているとお考えですか?

バツケ氏 伸びしろはとても大きいと思います。欧州ではCLで結果を出す以外、クラブの地位をあげる方法はありません。そのCLの舞台でここ数年、ドルトムントはしっかりとした足跡を残してきました。例えば2013年のバイエルンとの決勝戦や、2014年にレアル・マドリード(スペイン)に勝利を収め、ベスト4の直前まで勝ち進んだことなどです。来季はぜひとも、またあの舞台で戦いたい。われわれは常に進むべき道を追求していきます。その中で2つの核となるのは東南アジアとアメリカでの市場です。次の夏にはおそらく東南アジアへ、2017年にも海外ツアーを予定しています。

——シンガポールにはすでに事務所を構えられましたね。アメリカもそれに続くのでしょうか?

バツケ氏 その予定ですが、すぐにではありません。クラブとしての蓄えをうまく運用する必要がありますので、まずは東南アジアと中国への進出に力を注ぎたいと考えています。そこで基盤ができれば2、3年以降、アメリカに進出するでしょう。中国やタイ、インドなどから1年では果たせないほどたくさん、遠征試合の要望が寄せられていますからね。

外国から訪れる多くのファンたち

——国内から海外へ向けたマーケティングについてもお伺いしたいのですが、ブンデスリーガには外国から多くのファンが訪れています。ドルトムントの場合はいかがですか?

バツケ氏 各ホームゲームに約800から1000人のファンがイギリスから足を運んでくれています。何しろ飛行機と試合のチケットを合わせても、プレミアリーグを1試合を観戦するよりも安くついてしまうのですから。それから日本からのファン。香川真司の大きな功績ですね。スイスのファンも忘れてはなりません。スイス人選手たちがクラブにもたらしてきた成功は、いまや伝統ともいえます。

——イギリスのファンがドイツで試合観戦するのは、チケットの安さからだけでしょうか?

バツケ氏 もちろんそれだけではありませんが、それは大きいと思いますね。プレミアリーグのチケットは非常に高額なだけでなく、ほとんどの入場券をスポンサーが確保してしまいます。ドルトムントを訪れるイギリスからのファンたちは、自国ではもう20年、30年も味わえなくなったサッカー観戦の醍醐味を味わって帰るのです。

——立ち見席の文化が果たす役割も大きいと思いますが?

バツケ氏 もちろんです。でも正直なところ、イギリスのファンは自国でサッカーを観戦するときも、ほとんどの時間立ち上がって応援しています。立ち見席でなく、座席があったとしても(笑) ともあれ、彼らは正真正銘のサッカーの匂いを体感するために、ドルトムントへやって来ます。

「2人を発掘できたことは誇り」

——ドルトムントは欧州トップのストライカー、ピエールエメリック・オバメヤンとロベルト・レバンドフスキ(現バイエルン・ミュンヘン)の2選手を発掘しました。

バツケ氏 その通りです。2人を発掘できたことをわれわれはとても誇りに思っています。スカウト分野での成功は、火を見るよりも明らかですね。ロベルト(レバンドフスキ)は素晴らしい選手というだけでなく人格者で、一緒に仕事をしたプロ選手の中ではずば抜けた存在です。ピエールエメリック(オバメヤン)は見た目こそまったく違いますが、彼もまた志の高い選手です。2人は紛れもなく欧州トップクラスのストライカーだと思いますね。

——おしまいに、ドルトムントにおける中長期のビジョンについてお聞かせください。

バツケ氏ドルトムントはバイエルンに次ぐ国内2番手の位置を保持し続けるべきだと考えます。これまでの改革の道は順調に進んできたと思っています。欧州の舞台でもトップクラブとして定着していかなければなりません。それは人口60万人の小さな町から勇気を出し、欧州の大都市へ乗り込んでいく状況であっても、決して非現実的なことではありません。われわれは、その勇気というものを持ち合わせていますからね。

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