Summary

  • 「Jリーガーが語るブンデスリーガ」第2弾
  • FC東京所属の大久保嘉人がブンデスリーガを語る
  • 大久保は2009年1月から半年間ウォルフスブルクに在籍

日本人選手たちの活躍によって年々注目度が増しているドイツ・ブンデスリーガ。この欧州最高峰のリーグは、Jリーガーの目にどのように映っているのだろうか。2009年1月にウォルフスブルクに加入し、ブンデスリーガ制覇も経験した現FC東京の大久保嘉人選手に、ドイツ時代のエピソードや当時のチームメートだった長谷部誠選手について語ってもらった。

大久保はウォルフスブルクでブンデスリーガ9試合に出場。リーグ優勝も経験した

「2回断ったのに3回目の誘いがきた」

——大久保選手は2009年1月にウォルフスブルクに加入し、ブンデスリーガで半年間プレーしました。移籍のきっかけや経緯を教えてください。

大久保 きっかけはフェリックス・マガト監督です。マガト監督に誘われてドイツに行きました。実は監督に誘われたのはその時が初めてではなくて、シュトゥットガルトを率いていた時にも2回ほど声を掛けてもらいました。3回も声を掛けてくれたんだから、「一度話を聞いてみよう」ということで実際に話を聞きに行きました。

——マガト監督はいつ頃から大久保選手に興味を持っていたのでしょうか?

大久保 いつ頃ですかね? よく分からないですが、自分がマジョルカ(スペイン)に行く前にもシュトゥットガルトからは話が来ていました。

——マガト監督の熱意に負けてドイツ行きを決断したと?

大久保 3回目でしたからね。2回も断ったのに「それでも声を掛けてくれるのか」と。だったら一度見に行ってみようということになりました。

——実際にプレーしてみてブンデスリーガにどんな印象を持ちましたか?

大久保 ロングボールを蹴って、そのセカンドボールを拾って、というのが当時は主流でした。ウォルフスブルクもそういうサッカーをしていましたから。ただ、ウォルフスブルクの場合は前線の2人が強烈で、2人だけでゴールを取れてしまう。

——当時の2トップはエディン・ジェコとグラフィッチでした。

大久保 前にボールを蹴れば、2人でキープしてそのままシュートまでもっていける。自分が加入した時点ではまだそれほど点を取っていなかったんですけど(ジェコが5得点、グラフィッチが11得点)、後半戦に入ったら一気に点を取り始めた(最終的にジェコが26得点、グラフィッチが28得点)。あれはすごかったですね。

——プレースタイルの部分で苦労したことはありますか?

大久保 相手は大きな選手ばかりなので、ロングボール主体のサッカーの中で自分がどうプレーすればいいのか、というのはありました。それについては監督とも、「来る前に聞いていた話と違うぞ」という感じで話をしました。でも、チームは優勝争いをしていたので、途中でやり方を変えるのはなかなか難しかったみたいです。

「マガト監督の練習はそれほどつらくない。練習は普通です」

——マガト監督には「厳格で練習が厳しい」というイメージがあります。実際はどうでしたか?

大久保 いや、イメージが先行していただけで周りが言うほどじゃなかったと思います。練習に関しては普通です。高校時代のほうがつらかったですから(笑)。

——実際にはそこまでではなかった?

大久保 練習についてはそうですね。それよりもつらかったのは日程です。マガト監督は日程を全然教えてくれないんですよ。だからオフがいつなのかも分からないし、予定を立てられない。朝8時に集まってみんなで朝食をとって、午前練習をして、昼食をまたみんなで食べる。そこで初めてその日の午後の練習があるかどうかを知らされるんです。その日が2部練習なのかどうかも直前まで分からないんですよ。

——それはつらいですね。

大久保 ほかにも、朝6時から体育館で跳び箱を飛んだり、天井から吊るされている綱を腕の力だけで上ったり。選手が6人ぐらいのグループに分けられて順番に朝練が回ってくるんです。

——試合に負けてオフが半分ぐらいになってしまったというエピソードを聞いたことがあります。

大久保 半分どころじゃないですね。ほぼ全部なくなる勢いでしたから(笑)。試合に負けたら、その日は家に帰れずそのまま緊急合宿に入ったり……。友だちが会いに来てくれていたのに、急にそういうことがあって会えないなんてこともありました。

——ウォルフスブルクはそのシーズンにリーグ優勝を果たしました。優勝争いをしているチームの雰囲気はどうでしたか?

大久保 トップを走っているチームという感じはあまりなかったですね。浮かれた雰囲気になるとマガト監督が怒りますから(笑)。リカバリー中に選手がふざけていたら、急に走らされたり。そういう意味で緊張感というか、ピリピリしたムードはありました。監督がいつ怒るか分からないから、みんな集中してやっていましたよ。

——出場機会は限られましたが、ブンデスリーガ制覇という経験は大きかったのでは?

大久保 貴重な経験でしたね。経歴にタイトルもつくわけですから。そこは良かったと思います。

2008/09シーズンにウォルフスブルクをブンデスリーガ制覇に導いたマガト監督

「Jリーグとブンデスリーガは似ている部分もある」

——約半年でしたが、ドイツでの生活はどうでしたか?

大久保 かなり楽しかったです。苦労したのは言葉ぐらいで、あとは不自由しませんでした。街はきれいだし、すごく住みやすかった。子どもが通う幼稚園もちゃんとしていました。

——当時、ウォルフスブルクには長谷部誠選手(現アイントラハト・フランクフルト)が所属していました。同じチームに日本人選手がいたことはやはり大きかったのでは?

大久保 そうかもしれないですね。でも、自分の場合は日本人がいるとかいないとか、そういうのはあまり気にならなかった。スペインでの経験もありましたから。

——長谷部選手は今もドイツでプレーしています。彼の活躍ぶりをどう見ていますか?

大久保 当時から頑張っていましたよね。言葉もある程度話せていたし、やるべきことをきっちりとこなしていく感じで。もともと真面目なタイプだし、ドイツ人とも合うんじゃないかな。ポジション的にも性格的にもドイツにハマっていたと思います。

大久保とチームメートだった長谷部(左)は、現在もブンデスリーガで活躍している

——日本に戻ってきて、Jリーグとブンデスリーガのどんなところに違いを感じましたか?

大久保 似ている部分も多いと思います。スペインは全然違いましたけど、ドイツ人と日本人は性格的にも似ている部分があって、サッカーでも共通点は多い。ただ、スピードは圧倒的にドイツのほうが速かったですね。日本の場合はペースが単調というか、攻めも守りもすべて全力で行くじゃないですか。でも海外は落ち着くべきところは落ち着いて、スイッチが入った時に一気に攻め込む、というようにメリハリがある。そして、一度スイッチが入ったら全員がなだれ込むようにゴールに向かっていく。ヨーロッパから帰ってきたばかりの頃は大変でしたね。日本は90分間すべて全力だから、体力がもたない。

——現在ブンデスリーガでは多くの日本人選手がプレーしています。彼らの活躍についてどう感じていますか?

大久保 ハイライトが中心ですが、たまに試合を見ますよ。面白いのはバイエルン・ミュンヘンドルトムント。やっぱりその2チームを中心に見てしまいますね。

——これからブンデスリーガを見てみようと思っている日本のサッカーファンに見どころを教えてください。

大久保 やっぱり日本人選手だと思います。あれだけ日本人がプレーしているわけですから、リーグの特徴うんぬんよりも、まずは日本人選手が出ている試合を見てもらうのがいいと思います。それをきっかけにいろいろなことに興味を持って、いろいろなことを知っていく。そうやってブンデスリーガの魅力を見つけてもらえたらと思います。

写真=新井賢一

Jリーガーが語るブンデスリーガ:第1回矢野貴章(アルビレックス新潟)