異例の進路に注目、今冬ケルン加入の22歳MF

4月21日のブンデスリーガ2部第31節、今季首位を走ってきたケルンがボーフムを下し、5連勝で本拠でのリーグ優勝と3年ぶりの昇格を決めた。試合後、歓喜の輪の中には長澤和輝(22)の姿もあった。ことし1月に名門チームの扉を叩いた長澤。Jリーグでのキャリアがなく、“一大学生”からいきなり海外のプロチーム入りという異例の進路選択に注目が集まった。出場機会に恵まれない時期もあったが、加入から2カ月で先発に定着。来季はドイツ最高峰の舞台、ブンデスリーガへ戦いの場を移す。

挑戦したい気持ち勝つ


専大時代は1年生で関東リーグ1部昇格を経験、翌年から1部3連覇、さらにインカレ優勝とタイトル総ナメに加えて大学選抜では主将を務めた。順風満帆なサッカー人生を歩んできた長澤だが、もともと海外志向があったわけではない。ただ、「プロになりたい」「高いレベルでやりたい」という一貫した思いは持っていた。

3年生の終わりごろ、大学選抜のドイツ遠征に参加する機会に恵まれた。地元チームとの試合を通じて体感したのは、「日本とはまた違うサッカー」(長澤)。たとえるならば“野球”と“ベースボール”のような違いを実際に目の当たりにした。「こういう世界も見てみたい」。そんな思いが芽生えたが、当時は具体的なオファーはなかった。ケルンから声がかかったのは4年生の11月のこと。Jリーグ入りを考えていたが、1カ月もない短い期間で熟考を重ね、渡独に至った。

「単純にチャンスだと思った。いい経験にもなると思ったし。ブンデスリーガの1部だったら、確実に世界の中でもトップレベル。その高いレベルに行けるチャンスがあるんだったらチャレンジしたいっていう気持ちが、最終的には勝ちました」。

先発定着後は負けなし


念願のプロになってから3カ月半、これまで9試合に出場(途中出場2試合)した。デビュー戦は冬季リーグ中断期間明けの初戦、2月9日のパーダーボルン戦。しっかりと引いて切り替えの早いカウンターから得点を狙う相手に苦戦を強いられたケルンは、68分、攻撃の打開を図り長澤を投入したがチームは敗戦。長澤もここから5試合、我慢のときが続いた。だが再チャンスがめぐってきた第26節アーレン戦で55分から途中出場すると、攻撃にアクセントをもたらし存在感をアピール。試合は0-0で引き分けたが、翌27節から今節インゴルシュタット戦まで6試合連続で先発し、チームも長澤のスタメン定着以降は負けていない。

「結果が出れば『良かった』、出なかったら『良くなかった』って言う人はいるかもしれないんですけど、自分の中では違う。ドイツの環境に身を置いてのサッカーは、日本では確実にできないこと。すごくいい経験になってるし、いい決断ができたのかなって思ってます」。

ケルンに来たことは間違いではなかった、そう確信している。練習や試合を通じてさまざまなことを学び、手応えも感じる日々だ。「細かな技術やボールをしっかり収めて攻撃にかかわるプレーは十分通用する」と分かった。だが同時に、多くの課題があることも自覚している。

監督は高い技術を評価


日独の違いとして、長澤は寄せの距離、ボールを奪いに来る守備の仕方、ゴール前でシュートを打てる距離やその精度、フィジカルコンタクトの強さなどを挙げる。それにしっかり対応できる身体作りの必要性を感じているという。しかしシュテーガー監督も「彼の強みは技術。非常にテクニシャンで運動量豊富な選手」と長澤の能力は高く評価。「いいプレーができることは知っていた」と、先発定着は驚くことではないとしつつも、「(ドイツのサッカーに)これほどまで早く馴染むとは思っていなかった」と、その適応力の高さはうれしい誤算だったようだ。

監督は長澤に対して細かい指示は出さない。長澤はその意図を「(試合に)出してくれたってことは、自分の特徴を認めて、それを出せっていうことだと思うので。攻撃で怖さを出す、守備でハードワークする。日本人の特徴である技術を出したプレーを、ということだと思う」と汲み取っている。自由にやらせてもらえる分、やりにくさもなくプレーできているという。若手の育成に定評あるシュテーガー監督としても、伸び伸びとやらせることでドイツのサッカーにいち早く慣れさせ、チームのサッカーにフィットしてほしいという思いがあるのだろう。渡独してからの長澤の成長を見れば、今のところその思惑通りに事が運んでいると言える。

冷静でクレバーな分析


来季はいよいよ待ち望んだ「世界のトップレベル」ブンデスリーガへ参戦することになる。シュテーガー監督は「来季1部に上がっても、もちろん長澤は構想に入っているよ。彼は将来性があるし、チームにとって大事な局面でいいパフォーマンスを見せてくれた選手」と期待を寄せるが、長澤自身はあくまでも冷静。

「いきなり1部でバンバンやれるっていう風には思ってなくて。まあ、経験しなければ分からないことがすごく多くあると思うので、1部の試合で自分のどこが通用するのか、どこが通用しないかっていうことを、もっと客観的に分析してやれれば」。

地元ケルンではすでに注目の選手となり、街なかでファンの少年たちに写真撮影を求められることもある。しかし現実をしっかり見つめられるクレバーさを持ち、昇格にも浮かれてはいない。来シーズン、ケルンがサプライズ集団として上位を狙うのか、堅実に残留を目指すのかはまだ分からないが、自分が目指すべきところもやらなければならないこともよく理解している。

「練習から全力でやって、自分の良さをどんどん出して、もっとチームの中で試合に絡んで中心の選手になれるように頑張りたい」。

今季はまだ得点・アシストともに生まれていない。だが数字で結果が出たとき、また一枚殻を破り、自信をつけ、さらなる成長への足がかりをつかむことだろう。

Yukiko Sumi(鷲見由希子)