ブンデスリーガ2部アウエ、異色の日本人選手の素顔(2)

今夏、ブンデスリーガ2部アウエに加入した(25)。高校卒業後にプロ入りするも2年で戦力外となり、大学サッカーを経てモンテネグロで再びプロに戻るという、ひと味変わった経歴の持ち主だ。そんな石原が「いろいろな偶然が重なって」アウエとの契約を勝ちとってから、2カ月が過ぎた。

危機感とポジション探しの日々


いずれはモンテネグロからステップアップしたい。そう考えていた矢先にドイツからのオファーが来たことには、驚くと同時に「純粋にうれしく、話がきた時点で気持ちは固まっていた」という。喜びと期待を胸にやって来た新たな国では、新たな生活、慣れないスタイルのサッカーと、戸惑いは大きい。

まだまだ危機感を感じる毎日だ。激しい練習になるとついていけない部分もあり、一日でも気を抜いたら置いていかれるという気持ちを常に持っている。定位置を確保しているわけではなく、ましてや今のところ、自分自身でもまだベストポジションを見つけられていない状態である。

これまでの出場は4試合、いずれも先発しそれぞれサイドバックやボランチ、サイドハーフと異なるポジションを務め、1ゴールを挙げている。ファルコ・ゲッツ監督は石原の獲得理由を「左利きで高い技術があり、さまざまな位置でプレーできる」としており、マルチ性に期待をかけているようだ。その一方で1対1での強さ、ドイツのサッカーへの慣れを課題として挙げてもいる。だが石原本人は、固定のポジションがないということに戸惑いもあるようだ。

「『ポジションどこ?』って聞かれて、『あれ? おれどこのポジションだ?』って思って。そのポジションをやるべくしてやってる選手がすごくうらやましいですし、自分もそうなってかなきゃいけないなって思います。今はどのポジションをやっても一長一短がある。だから僕は人よりやるべきことは多いですけど、それを一個一個やっていけば、人より優れた選手になれるんじゃないかなって」。

目指しているのは、あるポジションでスペシャリストでありながら、同時にほかもこなせるような選手だ。例えて言うならばバイエルンのドイツ代表DFだという。

「職業・サッカー選手」のスタート


ポジション探しという模索の日々を送るなかで、今でもまだ「ブンデスリーガー」になった実感はない。現在ブンデスリーガ2部でプレーする(ボーフム)、(アーレン)の2人はいずれも、それぞれJ1、J2で実績を残した選手。アウエとの契約は、単純に考えれば石原が彼ら2人と同じ土俵に立ったという解釈にもなる。そのため、周囲の人々は契約がまるでゴールであるかのように喜んだという。

たしかにJリーグに入ったときは、Jリーガーになったこと自体がゴールになってしまった自分がいた。しかし、現在の自分はもうあの頃とは違う。その上で「やっと『職業・サッカー選手』って言えるようになった」(石原)。周囲と自分の間にギャップがあると感じたのはこのときだった。

「今は、継続する努力の大切さも知ってますし、一回痛い目に遭ってるので。自分の中では、ドイツ来てもう一個ステップアップするようにがんばろうと、ずっと思ってて。そう思ってる自分に『ああ、おれ成長できてるじゃん』て思ったりして。ここが目指してた最終地点ではないんだよって思ってて。だから、自分の中ではまだゴールじゃなくてスタートですね」。

苦しい思いのなかでつかみとり、学んできたことは大きく、今の、そして今後の石原を支えていくことになるだろう。

新たな発見と努力の大切さ


精神的成長だけではなく、サッカーにおいてもあらためて気づいたことがある。自身を「天才な選手じゃないし器用貧乏」と評する石原だが、ドイツへ来てからは自分のプレーに「意外と武器が多い」と思うようになった。日本ではほめられたことのない右足のキックが、こちらでは評価された。自分では上手いと思っていなかったトラップやパスも、ここでは安定していると言われた。似たようなタイプが多い日本では目立たなかった特徴も、国が違えば大きな売りになり得るのである。新たな発見だった。

そして「継続は力なり」を心から実感したのが、ことしの夏だった。大学4年間、モンテネグロでの半年間と努力を積み重ねてきた結果が、ほんの数週間でアウエ移籍という一つの形になって現れたのだ。謙虚な姿勢を崩さない石原が、自信を持って口にすることがある。

「いろいろな分岐点でいろいろな人に支えられて、偶然が重なって手にした契約だけど、ただ一つ言えるのは、その偶然を手にするための努力はしてたよってこと」。

感謝の気持ちを忘れず、周囲に応えるためにもよりいっそうの努力をし続ける。そんな姿勢を崩さずにいることが、いつか成果に結びつくのかもしれない。

充実の練習、監督への信頼


ここ2試合はベンチ入りも出場機会には恵まれていない。だが焦りはない。出場した4試合で自分ができること、できないことは明確に見えた。今はひたすらやるべきことをやるのみ。そう思えるのは、ゲッツ監督への絶対的な信頼があるからだろう。

「今は練習で充実してできてるんで、落ち着いてはいますね。練習でしっかりやってれば、あの監督は見ててくれますよ。だから焦りっていうのはないですね。早く期待に応えたいなあって、それぐらいですね」。

移籍当初は自分で自分にプレッシャーをかけてしまっていた。優れていると言われた部分をアピールしよう、求められていることをやらなくては、と思い込みすぎていた。考えが変わってきたのは最近だ。ベンチで観ていた第9節カールスルーエ戦で、ふと思った。

「それまでは、毎回ボールをもらうたびにいいパスだったりサイドチェンジだったりやろうとしてたんですけど、今はもっと簡単に、はたいてその分自分が走って、90分のうち何回かやれるところでやれればいいのかなあって」。

そう考えられるようになったことは、「自分で思い込んじゃったら周りが見えづらくなるし頑固」という石原としては大きな進歩と言える。

加入から2カ月、リーグ戦はシーズンの約1/3にあたる10試合が終了し、残るは24戦。チームに慣れ、ドイツのサッカーに慣れ、自分のプレーを見せられるようになるための時間はまだまだ十分にある。

「一番上を見たいですね。1回Jで戦力外になって大学に入り直して、自分の中ではシビアな現実も一番下も経験して、でも今ここに来られてる。これでたとえば1部行って、1部でもそこそこできて、国際大会とか出て・・・とかなったら、全部を知ることができる。そういうのも含めてできるだけ上に行きたいと思いますね」。

サッカー選手としてようやく再スタートを切った石原が、ここからどのように変化、成長を遂げ、どこまで上っていくのか。その「一番上」まで見届けてみたい、そんな気持ちにさせられる選手である。

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Yukiko Sumi (鷲見由希子)