確かな技術と豊富な経験でチームを引っ張る。「選手であるからには常に上を目指したい」と志は高い
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苦難と収穫の1年

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ボーフム田坂祐介の今季を振り返る(2)

2部への残留確定

2012/13シーズン、ドイツのブンデスリーガ、ブンデスリーガ2部に所属した日本人選手は延べ13人となった。何かと注目が集まりがちな1部の陰で活躍をみせるのが、2012年夏からブンデスリーガ2部のボーフムでプレーするMF田坂祐介と、2013年1月に2部アーレンに加入したMF阿部拓馬である。2人はともに大学卒業後にプロ入りし、Jリーグを経て念願だった海外挑戦に奮闘中。特に田坂はすでにチームでも中心選手となり、確固たる地位を築いている。半年遅れでやってきた阿部は現在、まだジョーカー的役割にとどまってはいるものの2ゴール1アシストでシーズンを終え、存在感を十分にアピールしている。そんな彼らのドイツ1年目を振り返った。


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4月8日に就任したノイルーラー新監督が選手たちにまず求めたのは、ディフェンスにおいて選手それぞれのポジションでしっかり守ることの徹底だった。サイドチェンジがなかった攻め方も変わり、「ワイドにとってサッカーをするようになった」(田坂)。攻撃に関する指示は少なかったナイツェル前監督に比べて攻守に対する指示は細かく、ポジショニングの修正などの改善点が勝利という結果となって現れた。田坂も「攻撃も守備に関しても両方、自分が感じたことを監督が指摘する感じ」と、やりやすさを強調していた。

しかし最も変化が表れたのは、選手たちのメンタリティだろう。以前はミスを恐れ、「前に出たら逆に空いたスペースから点を取られるんじゃないかっていう思いがあって、なかなか前に出られなかった」というチームが、「劣勢になったときもビハインドを負ったときも、前に出てしっかり点を取りにいく意識」がプレーに出るようになった。

そしてボーフムは4連勝後の第33節、FSVフランクフルトに敗れたが、残留争いを繰り広げていたアウエ、ドレスデンがともに敗戦を喫したため、1試合を残して2部残留を確定した。復調の原因を田坂はこう分析する。

「基本的なことは変わんないですけど、最初の方はやっぱあり『守り守り』みたいな。後ろに比重があったと思うんですけど。特に今の監督になってからは自分たちでボール握れる時間も増えましたし。そのなかで、自分のやりたいプレーを前の監督の時より10メートル前でできるような感覚になってきたんで。それが気持ちよくプレーできるっていうことにつながったんじゃないかって思いますし、チームがいい結果を出せるようになった要因じゃないかと思います」。

戸惑いからの収穫


チームの大不振、降格危機にともなう2度の監督交代、そして自身の負傷による長期離脱と、思い描いていたプランとは真逆といってもいいようなシーズンを送った田坂。だが戸惑いや試行錯誤の日々を経て得たものもまた大きい。

「まあまず最初は、こっちの、ドイツのサッカーに慣れるのにだいぶ時間が、半年くらいかかったっていうのはありますし。けがから復帰してからは自分のとこにボールが集まるようにもなりましたし、攻撃で自分のやりたいようなプレーとかもできるようになってきたんで」。

ドイツのサッカーに対して、当初は戸惑いも大きかった。最初に受けた印象は「日本では『キレイにサッカーする』みたいなところがあるけど、ドイツでは『リスクを犯さずに後ろにボールを回すくらいなら、前にボールをフィードしてそこで前が何とかしてよ』、みたいなサッカー」。どうやってボールをもらえばいいんだろう、どうやって攻撃を組み立てればいいんだろう、どうやってそのなかで自分がプレーすればいいんだろう。そういったことに頭を悩ませた。

慣れなければならないという思いと、ドイツのサッカーに埋もれたくないという思いが交錯し、ここでも葛藤と向き合った。自分がボールを持った時には簡単にプレーするところは簡単に、そしてチャンスを作れると思えば決定的なパスを出せるようなプレーをしたい。そういった思いが強かった。「うまく自分のなかで噛み砕いてボーフムのサッカーをすること」が、半年経ったころからは出来るようになってきたという。

主力の自覚と自信


負傷欠場から復帰後、すぐにレギュラーの座をキープし出場し続けたことも、確固たる自信につながった。

「もう1回一からポジション争いしなきゃいけないところを信頼してもらえて、自分をすぐチームの中心に据えてもらえたっていうのはすごくうれしかったし。逆にそのなかで結果に直結しなきゃいけないプレーをしなきゃいけないっていうプレッシャーもありましたし。まあ、そういう葛藤はありましたけど、一年通して主力で出れたことは大きな収穫じゃないかなと思います。主力としての自覚もありますし、チーム引っ張ってかなきゃいけないっていう思いもあるんで」。

今季28試合(うち先発26回)に出場し、3得点2アシスト。この数字にはまだまだ満足できないという。

「少ないですね、やっぱり。チームが勝てないなかで、やっぱ外国人の助っ人として自分は来てるわけで。自分がゴールとかアシストとか絡んでいかないとチームを引っ張っていけないんじゃないかっていう葛藤はあったし。そういうのをね、自分でプレッシャーに感じた時期もありましたけど」。

田坂の言うこのプレッシャーとは、外国人選手特有のものかもしれない。それでも今できることをやるしかないと気持ちを切り替え、チームの中で自分に何ができるかを考え、実行に移すようになってからは自分のプレーが出せるようになった。

強くなった精神力


チームが低迷するなかで、個人的な収穫も大きかった。リーグ戦、DFB杯を1シーズン戦い抜き、自分のプレーはドイツで通用するという確信を持った。身体の大きい選手を相手にした際、加入当初はプレッシャーに感じてしまう部分があったが、今では「寄せられても大丈夫」と思えるようになった。Jリーグ時代よりも、プレッシャーを受ける中でのスキルや個人で打開する力など、プレーの強度はこの1年で確実に上がっている。

強くなったのはプレーだけではない。すぐに切り替えられる、内面的な強さもドイツに来てから身についた。入団から5カ月間ついていた通訳も、冬季合宿開始前からいなくなった。言葉やコミュニケーション、生活習慣、サッカーの違いなど、これまで経験したことのない問題や受け入れなくてはならないことは多い。特に外国人選手には、それらを乗り越えられる精神力が必要とされる。

「まあ、図太さは必要だと思いますよ、こっちでやるんだったら。気にしててもしょうがないっていうか。まあ、言葉とかも完ぺきには分からないじゃないですか。分からないこととかを気にしてたらしょうがないかなって。切り替えは大事だと思います」。

常に高みを目指す


今季を通して、「ここでやっていける」という自信はつかんだ。次の段階へ進むためにはさらなるレベルアップが求められる。ほかの12人の日本人選手の存在も刺激になっている。Jリーグで対戦した選手がブンデスリーガで活躍していることは、「自分にも一つのものさしになる」と話す。ブンデスリーガ2部のボーフムで評価を上げ、昨年夏に1部に昇格したアイントラハト・フランクフルトへ移籍し、今季チームの大躍進に貢献した乾貴士を「いいビジネスモデルができてる」と表現し、自身も虎視眈々(こしたんたん)と昇格を狙っているようだ。

「やっぱり2部の中で目立たないと、1部移籍もできないでしょうから。選手である限り、なるべく高いレベルでやりたいっていうのはあるんで。自分自身、ここで、ボーフムで出来てても出来て当たり前だと思ってるので。練習中でもやっぱり、上のレベルと戦ったときにどうかっていうのを常に意識してる部分はあるし」。

常に高みを目指す向上心を決して失くさないのが、田坂祐介という選手だ。低迷した今季を吹っ切り、来季は上位を目指すためにクラブは今夏の補強に取りかかっている。ノイルーラー監督の新チーム作りにも注目が集まる。退団する選手もいれば、新加入選手もいる。必然的にチームに新たな競争が生まれることになるが、「そういう厳しい環境に身を置いてやりたいっていう目的があってこっちに来た」と歓迎している。2シーズン目を迎える田坂が、さらにどのような羽ばたきをみせるのか。大きな飛躍に期待したい。


Yukiko Sumi (鷲見由希子)