阿部拓馬は今季後半戦、J2東京Vからアーレンに移籍(右、左はスポーツディレクターのシュップ氏)
阿部拓馬は今季後半戦、J2東京Vからアーレンに移籍(右、左はスポーツディレクターのシュップ氏)

初の海外で奮闘

xwhatsappmailcopy-link

アーレン阿部拓馬の今季を振り返る(1)

海外へのあこがれ、勝ち取った夢の実現

2012/13シーズン、ドイツの1部・2部でプレーした日本人選手は計13人となった。何かと注目が集まりがちな1部の陰で活躍をみせるのが、今季から2部ボーフムでプレーするMFと、アーレンに後半戦から加入したMFである。2人はともに大学卒業後にプロ入りし、Jリーグを経て念願だった海外挑戦に奮闘中。すでにチームを引っ張る立場となった田坂に対し、半年遅れでやってきた阿部はもう少し慣れが必要な段階にある。それでも2ゴール1アシストでシーズンを終え、存在感を十分にアピール。そんな阿部のドイツ初シーズンを振り返った。

阿部拓馬ギャラリーへ



5歳上と2歳上の兄2人がサッカーをやっていたため、「自然と、物心ついたときは」いつの間にかボールを蹴っていたという阿部。テレビで海外サッカーが観られるようになった中学生のころから漠然と、海外でプレーしてみたいという思いを胸に抱いていた。

「単純に『他の考えの人』っていうか。やっぱ、外国人と日本人じゃ全然考えが違うじゃないですか。そういう、サッカーだけじゃなくて人間性みたいなとこも含めて、『外国人はどういうプレーすんだろう』とか思って、見てみたいなと思うようになりました」。

J2の東京Vで過ごしたプロ3シーズン目を終えた2012年12月、25歳になったばかりの阿部にその機会が訪れた。ブンデスリーガ2部ウニオン・ベルリンの入団テストを受けたのである。だが阿部が滞在した短い期間はあいにく大雪の悪天候が続き練習に影響もあり、ウニオン・ベルリンは「判断できないため獲得しない」との決定を下した。同じリーグのアーレンにとっては幸運だったと言えるだろう。翌2013年1月、アーレンがベレク(トルコ)で行った冬季合宿にテスト生として参加した阿部は、2度行われた強化試合で1得点1アシストときっちり結果を残し、入団を自力で勝ち取った。こうして海外移籍の夢が実現することになった。

第22節でドイツデビュー、翌節同点弾で存在感


昨季3部リーグで優勝しクラブ史上初の2部昇格を果たしたアーレンは、シュトゥットガルト市から東に60キロ離れた、ドイツ南部に位置する人口約67000人の小さな町にある。長らく3部を主戦場にしていたが、元オーストリア代表FWで2011年1月から指揮を執るラルフ・ハーゼンヒュットル監督(44)のもと、見事な躍進をとげた。前半戦を5位で折り返した今季は一度も12位以下に転落することなく、最終的に9位につけるという堂々たる戦いを繰り広げた。

だが、阿部の加入直後の後半戦序盤は、不調に苦しんだ時期だった。前半戦好調の昇格チームが他チームから研究され、後半戦勝てなくなり順位を下げていくというのはよくあることだ。アーレンはしかし第28節、ホームでインゴルシュタットを2-1で破りことし初勝利を挙げると、再び少しずつ勝ち点を積み重ねることに成功した。

阿部自身は、後半戦開幕から2試合連続でベンチ入りも出場機会はなく、「引いて守ってっていうチームには今までいたことないんで、出てみないとわかんないすね。出たいすね、早く」(2月8日、第21節ブラウンシュバイク戦)と出場を心待ちにしていた。

初出場は2月16日、ホームで行われた第22節ヘルタ戦。65分から1トップのシディマールに代えて投入された。次の第23節アウエ戦では主力のMFハラーが風邪の影響で欠場し、阿部が先発デビューを果たすことに。1-1の同点弾をアシストする活躍で実力を発揮した。ハーゼンヒュットル監督の方針は「いつもローテーションなんで。誰が出るか、直前までまったく分からない」(阿部)ため、シーズン終了まで途中出場、先発、ベンチ要員を繰り返したが、今季は結局リーグ戦15試合のうち9試合(うち先発5試合)に出場し2得点1アシスト。初の海外挑戦でシーズン途中に加入した外国人選手としては上々の出来といえるだろう。

コミュニケーションでの苦労、サッカーへの影響


アーレンは1部のクラブとは違い、小規模で財政にも余裕があるわけではなく、今冬唯一の新加入選手だった阿部にも専属の通訳はいない。「サッカーの練習と試合以外はドイツ語の勉強」という毎日で、監督やチームメートとは片言の英語や覚えたてのドイツ語の単語を並べて意思の疎通を図っている。

もともと積極的にコミュニケーションを取るほうではなく、子供の頃からどちらかというと人見知りだったという。しかしサッカーにおいて、戦術理解やチームメートとの連携は必須。そのためにはコミュニケーションをどの程度取れるかが、プレーに大きく影響してくる。今季出場した試合でも、なかなかボールをもらえない場面が何度もみられた。

「人とあんまりしゃべるのがそんな、得意な方じゃないんで・・・だから苦労してますね、そういう面では。でもこっち来て、たとえば集合時間とか分かんない場合とかチームメイトに聞かなきゃならないじゃないですか。そういう面では自分から聞かなきゃいけないですけどね」。

苦手なことに対しても、努力は惜しまない。そんな阿部の姿勢を、ハーゼンヒュットル監督も「まだチームや環境に慣れないといけない。それにドイツ語も話せるようにならないといけないし。でも阿部はすごく熱心で、(チームは)みんな彼と一緒にやれることに大きな喜びを感じている。勉強したいという姿勢がすごくみられるし、私にとっては最も重要なこと」(3月8日、第25節FSVフランクフルト戦)と高く評価している。

阿部拓馬の今季を振り返る(2)へ