今季からボーフムに加入したMF田坂祐介(右、左はトット前スポーツディレクター)。同クラブでは小野伸二、乾貴士に続く3人目の日本人選手となった
今季からボーフムに加入したMF田坂祐介(右、左はトット前スポーツディレクター)。同クラブでは小野伸二、乾貴士に続く3人目の日本人選手となった

苦難と収穫の1年

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ボーフム田坂祐介の今季を振り返る(1)

開幕戦から先発

2012/13シーズン、ドイツのブンデスリーガ、ブンデスリーガ2部に所属した日本人選手は延べ13人となった。何かと注目が集まりがちな1部の陰で活躍をみせるのが、2012年夏からブンデスリーガ2部のボーフムでプレーするMFと、2013年1月に2部アーレンに加入したMFである。2人はともに大学卒業後にプロ入りし、Jリーグを経て念願だった海外挑戦に奮闘中。特に田坂はすでにチームでも中心選手となり、確固たる地位を築いている。半年遅れでやってきた阿部は現在、まだジョーカー的役割にとどまってはいるものの2ゴール1アシストでシーズンを終え、存在感を十分にアピールしている。そんな彼らのドイツ1年目を振り返った。

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プロ5年目を迎えた田坂がドイツ・ボーフムにプレーの拠点を移したのは、2012年7月のこと。もともとはスペインやポルトガルのスタイルが好きだという。しかし「サッカーだけじゃなくて色んな状況を考えたら、ドイツが一番理にかなっている。たくさん日本人がやってるっていうモデルケースもありますし」という理由でドイツを選んだ。

かつて元日本代表MF小野伸二や川崎フロンターレの先輩でもある北朝鮮代表FW鄭大世がプレーし、昨季は日本代表MF(現アイントラハト・フランクフルト)が活躍したボーフムへの移籍が決定。昨季11位に沈んだチームを1部昇格に導こうという意気込みでやって来た。ところがその思惑とは大きく外れ、チームは今季、降格の危機にまでに落ち込むことになる。


チームに合流して12日で迎えたシーズン開幕戦のドレスデン戦で、田坂は左MFとしていきなりフル出場を果たし、2-1の勝利に貢献した。当初クラブはトップ下を想定して田坂を獲得したが、今季のボーフムは4-4-2システム。トップ下というポジションは存在しないため左右のサイドハーフとして起用されると、適応力の高さをみせ間もなくチームに欠かせない存在となった。第7節カイザースラウテルン戦では初ゴール。シュートの本数が増え、積極的に自らゴールを狙うようになってきたのはこのころからだ。ドイツのサッカーにも馴染んできた様子がうかがえる発言も出てきた。

「最初の頃よりは、チームのやるサッカーっていうのがちょっと落ち着いてきた部分があるんで。そういうなかでまあ、少しタメができたときに自分が前へ行くことができるようになったんで、それがシュートの数だったりゴールにつながってるんじゃないかなって」(9月27日第7節カイザースラウテルン戦を終えて)

不振と監督交代


しかしチームの成績に目を移してみれば、第5節から勝ち星なしとまったく振るわず。10月27日に第11節でアウエに1-6の大敗を喫すると、自動降格圏の17位にまで転落した。ついにその翌日アンドレアス・ベアクマン氏に代わって、コーチを務めていたカーステン・ナイツェル氏が監督に就任した。

田坂は直後の10月30日、DFB杯2回戦のハーベルゼ(4部)戦で、移籍後初めて90分間ベンチに座ることになる。5日後の第12節コトブス戦からは先発に復帰。次の第13節ザンクト・パウリ戦では、ハーベルゼ戦を振り返ってこう話した。

「一時期出られない時期を経て、ま、『そこでうまく休む』っていう風にとらえて、一回自分を見つめ直して。で、またいい形でプレーできてるんで、調子は上がってきてると思います。今の監督になって、休んだほうがいいっていうような感じで言ってくれたんで、その休みをポジティブにとらえて自分の中ではやりました」。

この前向きさが田坂の強みでもある。コーチとしてチームを指導していた44歳の若い新指揮官によって「やらされてるっていう感じがなくなった」といい、明るい光がみえたかのように思えた。だがナイツェル監督のもと、チームは3勝3敗2分で2012年を終えたものの、悪い流れを大きく変えるまでには至らなかった。年明けからは再び勝てない日々が続いた。

負傷で長期離脱


そのいっぽうで田坂は、冬季リーグ中断期間に入る直前の12月14日、練習中に右ひざ骨挫傷を負い第19節パーダーボルン戦を欠場。さらに年明け、トルコでの冬季合宿中にも同じ箇所を再び傷めるという不運に見舞われ、2カ月半の戦線離脱を強いられる事態に陥った。田坂不在の間、チームは2敗2分。ようやく復帰を果たしたのは、2月27日のだった。この試合、日本代表DFと同FWを擁するシュトゥットガルトと対戦したボーフムは1部相手に善戦。惜しくも1-2で敗れたが、先発出場し75分までプレーした田坂も、久々の試合を楽しんだ。

「思ったよりは早く帰ってこられたかなあって感じはありますね。やっとね、自分の中では『開幕した、ことしが始まった』って感じなんで」。

主力の復帰をチームも喜び、それだけにここからの上昇に期待もかかった。だが状況が好転することはなく、2013年に入ってからは6戦連続で勝ち点3が取れず。田坂は当時をこう振り返る。

「途中からちょっとヤバイなっていうのはあったんですけど。サッカーの質、見たり・・・。まあでもね、自分自身も絶対的な結果を残してるわけじゃないから、周りの文句ばかりも言えないし」。

2度目の監督交代


苦悩の日々が続くなか、4月5日の第28節、アウエにまたもや0-3で完敗すると、3部との入れ替え戦にまわる16位に転落。その3日後に再びクラブによるテコ入れ、つまり今季2度目の監督交代が行われ、2001年から2005年までボーフムを率いたペーター・ノイルーラー氏が呼び戻された。地元では人気のある名物監督だが、無所属だった2012年6月、ゴルフの最中に心筋梗塞で倒れ療養し監督業への復帰は無理と報じられていたこともあり、まもなく58歳の誕生日を迎える新指揮官の就任を懐疑的にみる向きは少なくなかった。ところがチームは、まるで生まれ変わったような戦いぶりで次々と上位チームを倒し、4連勝を挙げる。

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