リトバルスキ氏インタビュー〈前編〉

【ウォルフスブルク発・bundesliga.de 編集部】 現在ブンデスリーガでは、全18チーム中その半数にあたる9チームに日本人選手が所属している。今では戦いの地をイングランドに移したが、ドルトムントで世界のトッププレーヤーまで上りつめた香川真司、ウォルフスブルクでブンデスリーガ優勝を経験し、日本代表でキャプテンを任されるまでに成長したの2人は、ドイツで成功した日本人選手の好例だ。

一方、それとは逆の道をたどった人物がいる。1993年に日本へ渡り、選手キャリアの晩年を過ごしたピエール・リトバルスキ氏だ。リトバルスキ氏は1990年には西ドイツ代表としてW杯優勝を経験。その豊富な知識と経験を活かして、日本では選手としてのみならず監督としても、Jリーグの発展に大きく貢献した。近年、日本代表はW杯の常連となるまでに躍進している。

このインタビューの前編では、リトバルスキ氏が自身の経験を元に、選手が日本とドイツという文化的基盤がまったく異なる2国間で移籍するにあたってどのような障害にぶつかるのか、また受け入れ側のクラブは日本人選手獲得の際にどのような点に留意すべきか、そして日本人選手、特に中盤のプレーヤーはどのような利点を持っているのか、などについて語る。


bundesliga.de このところ欧州各国のクラブに所属する日本人選手が急増しています。リトバルスキ氏ご自身はそれとは反対に、選手キャリアの晩年を日本で送りました。また、奥様も日本人ということで、日本とドイツのような文化がまったく異なる地域間で移籍することが、どのような影響を及ぼすのか熟知していらっしゃるのではないかと思います。カルチャーショックは実際、どの程度のものなのでしょうか?

リトバルスキ氏 非常に大きなものです。食事に始まり、伝統や生活習慣、他者との接し方、教育制度、家族のつながりなど、両国にはあらゆる面で違いがあります。そのため、日本人選手にとってドイツで生活するというのは、まさに慣れないことの連続だと思います。

bundesliga.de やはり多くの違いが存在するようですね。それは日常生活のレベルでは、どのように現れるのでしょうか?

リトバルスキ氏 日本人選手は非常に謙虚で、遠慮がちな態度をとります。それは彼らのインタビュー中の対応の仕方にも見て取れます。

bundesliga.de ピッチの上ではどうでしょうか?

リトバルスキ氏 その点での差異は、我々にとって初めは慣れるのが難しいところかもしれません。国民性がまったく違いますから。特に、批判に対する反応の仕方ですが、これに関しては私も始めは色々学ぶ必要がありました。例えば、一度ピッチ上で大声を上げたときのことです。もちろんこれはチームのためにしたことだったのですが、それでも日本人選手は大変驚いていたようです。試合後の更衣室でも注意が必要でした。日本とドイツでは、皮肉や冗談ということに対する考え方が違います。例えば、私が「お前はどこに目をつけているんだ?」とある選手に冗談を飛ばしたとしましょう。これがドイツであれば、笑いにつながり、相手も言い返してくるということになるでしょうが、日本では逆に相手を不快にさせてしまうことだってあるわけです。

bundesliga.de それでは今ドイツでプレーしている日本人選手は苦労しているでしょうね。ドイツ人のサッカー選手は、その点ではまったく遠慮がないですから。

リトバルスキ氏 その通りです。ただ、そのような傾向は、特に私が現役だった頃に強かったと思います。今の選手はいくらか生意気さが出てきました。ただ、それでもやはり皮肉や人を小ばかにするような冗談というのは日本の習慣にはありませんので、ドイツでプレーする日本人選手は苦労しているのではないでしょうか。

bundesliga.de 言葉の違いからくる影響というのはどの程度ですか?

リトバルスキ氏 私個人の経験から言わせてもらうと、ドイツ語とまったく異なる言語である日本語をある程度のレベルで使えるようになるまで、10年ほどかかりました。ですので、日本人がドイツ語を学ぶ場合も非常に苦労することでしょう。

bundesliga.de 日本人の旅行客といえば、カメラを首からさげた大人数のグループの絵がぱっと思い浮かびます。そんな中、単独でヨーロッパに渡ってきた日本人選手をクラブはどのようにサポートしたらよいのでしょうか?

リトバルスキ氏 彼らには大概マネージャーが同行しています。さらに2、3人の友人がついてくることもよくあります。しかも、しっかり準備してきます。クラブにとって助けになるものといえば、有能な通訳者ではないでしょうか。ある程度サッカーについても分かる人物が好ましい。とにかく選手が細々した問題にわずらわされないようにしてやることです。選手は100%サッカーに集中したいという思いでドイツに来ていますから。食事についての心配は特に大きいようです。

bundesliga.de 性格が明るいことで知られる南米出身の選手ですが、2人以上の南米選手を擁するクラブはすでに多く存在しています。彼らは私生活でも時間をともに過ごすことが多いようです。これと同じく日本人選手に関しても、各クラブが2人目の日本人選手を獲得すれば、孤独なども解消されるのではないかと思います。ニュルンベルクやシュトゥットガルトのように、2人目の日本人選手を獲得するクラブは増えていくべきでしょうか?

リトバルスキ氏 南米人と日本人を比べることはできません。私が日本で監督をしていたときにも、ブラジル人が何人かいました。彼らはもちろん空き時間を共に過ごしていました。しかし、ドイツに来る日本人選手というのは、まずは結果を出したいという気持ちでいっぱいです。1人で暮らし、独自の計画を持っています。毎日の過ごし方も完璧に練り上げられています。このような状況で2人目の日本人が来たとしたら、もちろん近い存在になるので、それが重荷や負担にならないとも限りません。特に一方の選手がレギュラーで、他方の選手が試合に出られないような場合、試合に出ている側にとってはこれにパフォーマンスを影響されかねません。もちろん時には日本人選手で集まりたいこともあるでしょう。ただ、毎日会う必要はないと思います。

bundesliga.de ウォルフスブルクの長谷部選手は、ドイツ滞在歴の一番長い選手になります。新しくドイツに来た選手がアドバイスを求める先というのは、やはり長谷部選手になりますか?

リトバルスキ氏 もちろん。長谷部選手本人も認めるでしょう。日本人選手は定期的にデュッセルドルフで集まっています。デュッセルドルフはドイツ国内では最も多くの日本人が住む町なのですが、そこにある和食レストランで食事しながら、お互い情報交換をしているようです。

bundesliga.de 現在ドイツでプレーする日本人選手のポジションは、中盤に限られています。ゴールキーパー、センターバック、センターフォワードといったポジションで活躍する日本人選手はまだ見られません。やはり体格の差からくるサッカー哲学の違いは大きいのでしょうか?

リトバルスキ氏 もちろん日本人はこちらの選手よりも数センチ背が低いということもあり、違ったサッカーを目指していると言うことはできます。しかし、私には現在主流となっているサッカースタイルが、日本人の特徴に合っているように思われます。彼らはラインとラインの間に入って行き、狭いスペースでプレーすることができます。俊敏性に長けていて技術もある彼らは、中盤では大柄な選手に対しては有利なわけです。このような選手が今は求められています。チーム意識の高さ、完璧主義的な性質も日本人選手の良い点です。練習にも熱心に取り組みますし、規律正しさも兼ね備えている。

(後編へ続く)

聞き手 Jürgen Blöhs (ユルゲン・ブレース)