Summary

  • 今夏はイングランド人の有望株が続々とブンデスリーガに移籍
  • サンチョ、ハインズ、ケント、オックスフォードが参戦
  • プレミアリーグの若手にとってブンデスリーガは魅力的なリーグ

ビートルズはハンブルクのストリートやステージでファンを引きつける術を磨き、世界的なヒット曲を生み出す音楽の下地を作った。その後、ケビン・キーガンが同じ土地で輝きを放ち、ドイツのサッカーファンを熱狂させた。そして今、将来有望な若者たちが成長の舞台を求めてイングランドからドイツに次々とやって来ている。新たな侵攻の始まりだ。

ブンデスリーガが若手の育成に優れているという評判は、もはや新しいものではない。だが、アメリカ出身のクリスティアン・プリシッチ(ドルトムント)を除けば、成長する若者のほとんどは地元ドイツ出身の選手に限られていた。しかし、今では多くのイングランド人がステップアップのためのステージとしてブンデスリーガを選んでいる。当サイトではその理由を探ってみた。

ガラスの天井

世界中の名だたる選手たちが集まるイングランドのプレミアリーグは、エキサイティングで熱狂的だという評判を得ている。サッカーファンにとっては天国のような場所だが、地元の若者にとっては晴れ舞台でプレーするという夢の実現は極めて難しいものになっている。

UEFAの調査によると、プレミアリーグでプレーする選手の70%は外国籍選手で占められている。所属クラブが大きければ大きいほど、トップチームへの道は険しい。また、FIFAの公式データを管理するスイスのスポーツ研究国際センター(CIES)によれば、アーセナル、マンチェスター・シティ、チェルシーは、イングランド出身の選手にそれぞれ23%、17%、16%の出場時間しか与えていないという。

一方、ブンデスリーガでは国外から来ている選手の割合は49%に過ぎず、若い選手にも実力を伸ばし、ステップアップを果たすチャンスがある。イングランドの若手から大舞台でプレーするチャンスを奪うような「ガラスの天井」は存在しないのだ。今夏に行われたUー21欧州選手権を見ればその違いは明白だ。イングランド代表の場合、選手全体のプレミアリーグ出場数は合計で200試合強だった。それに対して、優勝したドイツ代表のブンデスリーガ出場数は、本来のレギュラークラスがA代表としてコンフェデレーションズカップに出場したにもかかわらず合計1000試合を超えていた。

イングランドの若手はたびたび、トップチームのスター選手と一緒に練習できると口にするが、ドイツでは少し事情が違う。今夏、アーセナルからウォルフスブルクに移籍したカイルン・ハインズは、マリオ・ゴメスとの写真をSNSに投稿し、「レジェンドがチームメートになった」とコメント付きで紹介した。ハインズにとって、ゴメスはトレーニングの相手をしてくれる憧れの存在ではなく歴としたチームメートなのだ。


クロップ監督とドイツ・コネクション

サッカーの選手や監督は習慣にとらわれがちだ。自分が慣れ親しんだことや知っていることに信頼を寄せる傾向にある。そう考えると、リバプールのユルゲン・クロップ監督がライアン・ケントをフライブルクへ期限付き移籍させたのも理解できる。

ドルトムントの元指揮官は、将来的にケントがアンフィールドのスター選手になれる素質があると絶賛していた。監督自身がフライブルクのこと、そして率直で明快な思考を持つクリスティアン・シュトライヒ監督のことをよく知っていたからこそ、彼は将来有望なケントをフライブルクに預けたのだろう。もし、クロップ監督がスペイン人であれば、ケントはビジャレアルへ移籍していたかもしれない。

クロップ監督はシュトライヒ監督について、「常に考えることを仕向ける人物」と語ったことがある。20歳のケントにも同じ影響を与えてくれることを望んでいるはずだ。ケントが新たなサッカー観を得ることが、リバプールの将来にとって良い結果をもたらすと信じているのだ。

アーセナルからウォルフルブルクに加入したハインズのケースは、一見すると冒険のようにも思える。しかし、19歳のハインズにとってはよく知る指揮官との再会だ。ウォルフスブルクのアンドリース・ヨンカー監督はアーセナルのユースアカデミー時代にハインズを指導したことがある。「アーセナルで常に僕を支えてくれた。僕を成長させようとしてくれた。ここでまた一緒に働けるのは素晴らしいことだ」と話すハインズは、この移籍が成功だったと証明するかのようにプレシーズンで5試合3得点と結果を出した。

リバプールのケントはクロップ監督のコネクションによってフライブルクに加入した

お手本と評判

マンチェスター・シティからドルトムントに移籍した17歳のジェイドン・サンチョには、ウスマン・デンベレがつけていた背番号「7」が与えられた。これはクラブとペーター・ボス監督からの明確なメッセージだろう。つまり、サンチョは試合で起用される。これまで出場機会を得られなかった選手にとって、ドルトムントが魅力的に見えたのも当然だ。

高い評価を受けながらマンチェスター・シティでは出場機会に恵まれなかったサンチョは、自分と同じ年齢でブレイクを果たしたプリシッチに希望を見いだしたに違いない。また、20歳のデンベレがドルトムントで驚くほど充実した12カ月を過ごし、大きな飛躍を遂げたことも「自分にも可能性がある」と考える要因になったはずだ。

今夏に行われたUー17欧州選手権で最優秀選手に輝いたサンチョは、ドルトムント行きが決まると、SNSに「自分の可能性を発揮するために新しいスタートを切る時がきた」と投稿している。

メンヘングラートバッハ(ボルシアMG)に期限付き移籍で加わったリース・オックスフォードもまた、プレミアリーグの選手がブンデスリーガで成功したことに影響を受けたと明かしている。「アンドレアス・クリステンセンは2年間ここでプレーし、今夏にチェルシーに戻った。彼のようにチームに貢献できればいいと思う」。ボルシア・パークでの活躍を経てチェルシーに呼び戻されたクリステンセンと同じような道を歩めれば、オックスフォード自身の成長も保証される。それは彼の保有権を持つウェストハムにとっても喜ばしいことだろう。

サンチョの背番号はこれまでデンベレがつけていた「7」に決まった

似ているリーグ

ブンデスリーガの試合はプレミアリーグと似ている。数多くのゴールが生まれ、試合内容は常にエキサイティング。スタジアムはどこも満員になる。ただし、イングランドの若手にとって一つだけ大きな違いがあるとすれば、彼らがしたいことができる、つまり試合に出られるという点だ。先輩の試合を見ているだけでなく、年上の選手たちと一緒にプレーし、楽しいことやつらいことを経験するのだ。

今回、サンチョとハインズは完全移籍だったが、所属クラブとの契約が残っているケントとオックスフォードは、これまでの慣習どおりならイングランドの2部以下のクラブに貸し出されるところだった。そう考えれば、プレミアリーグと大差ない経験ができるブンデスリーガへの移籍は大きな飛躍だ。オックスフォードも、「ブンデスリーガはプレミアリーグに最も近いリーグだと思う。インテンシティがあってチームも素晴らしい」と話していた。

リバプールとウェストハムは、期限付き移籍で放出した選手たちがプレミアリーグで戦い抜く力を備えて戻って来ることを願っているだろう。もっとも、ケントもオックスフォードもブンデスリーガの居心地が良くて戻りたくなくなる可能性もあるが……。

ボルシアMGで“第二のクリステンセン”になることを目指すオックスフォード